2005年10〜11月某日



 東京から中央高速で山梨・長野県とひた走り、南アルプスの山里で一泊し、浜松に到着。
 数年前にも訪問したことはあるが、ヒョウドウ プロダクツの保有する店舗はやはり大きい。どのくらい大きいかといえば、ペアスロープの店舗売場面積のざっと20倍といったところ。「デカけりゃぁいいってもんじゃねえよなあ!」と、同行のカミさんに小さな声でささやく、大きな負け惜しみ。


弊社のしょぼい10坪店舗

 まだ時間が早く、オープンしていない店舗の勝手口に入ると、兵頭社長がむかえてくれる。
 ・・・恐れ多くも、キンパツだ。
 「クソッ、俺も金髪にしてくればよかった」と、なんの根拠もない後悔ををする。


 店舗奥にあるヒョウドウプロダクツの工房には、6名ほどの職人さんが手を動かしている。よくよく見ると、ミシンや道具、縫製糸まで弊社と同じものを使っているが、そこからできるものは大きく異なる。おもにレーシングスーツを作っているのだ。

 さて、さっそくコラボモデルの打ち合わせにかかる。兵頭氏は我らが持参してきた弊社のツーリングジャケットを食い入るように見て、ボソボソと話しはじめる。
 「こんなに熟成されたジャケットを改良して、より優れたものを作るなんて、そう簡単なことじゃないですよ」
 そう、そんなことは百も承知。しかしヒョウドウならではのプロテクション技術をブチ込めば、より安全性の高いジャケットができるはずだ。その分野では弊社よりノウハウがある。





 お互いに、ただパットを着けただけでケガしないなんて思ってやしない。その着け方に問題があるし、頑丈なパッドになればなるほど、動き辛さも増してくる。ペアスロープの“フェルト製パッド”がかなりの強度を持ち、動き易さも兼ね備えているのを分かりつつ、なおかつハイレベルなジャケットを作ろうとしている。
 「玄人好みのジャケットになるでしょうねえ」 と兵頭氏が言うように、分かる人には最高の製品、分からない人には興味のないモノ、でしかないだろう。


 ヒョウドウオリジナルのプロテクションパッドを手にして、ちょっと意地悪な質問を兵頭氏にしてみた。
 「頑丈そうなパッドですねえ。きっとこれ着けたら、転けてもケガしないでしょ、痛くないでしょ?」
 「そんなわけないじゃないですかぁ、シロウトみたいなこと言わないでくださいよ〜、軽減はされますけどねっ。」
 もうひとつおまけに、
 「弊社のモデルより動きやすくなりますよね?」
 「・・・勘弁してくださいよぉ、分かってて言うんですからぁ」
 まあ、これらは両社共にお客さんからの多い質問。だから限りなく理想に近いジャケットを作りたいものである。



[ 両社の担当作業 ] ・・・全工程5ヶ月
1. デザイン ペアスロープ
2. パターン(型紙作り) ヒョウドウ プロダクツ
3. プロテクション ヒョウドウ プロダクツ
4. シーチングサンプル ヒョウドウ プロダクツ
5. プロトタイプサンプル ペアスロープ
6. 販売品製作 ペアスロープ


まだひとつの試作品すらできてないのに、こんなカンバンを上げて良いのだろうか。



さて、気合いを入れて試作品の製作開始!






第1シーチング試作サンプル完成!
2005年11月7日

 兵頭氏にガンガンのプレッシャーをかけてから10日後、弊社店舗に試作品が届く。シーチングサンプルだ。
 シーチングとは、各部の寸法のあたりをつけるためのサンプルで、本来のナイロン素材も使わず、裏地やポケット、各パーツなども省略して、見た目は生産品とはほど遠い内容である。
 右の第1サンプルをご覧になって、「なんだこんなカッチョ悪いの、、、興味なくなった〜」と思われるだろうが、ニューモデルが完成するまでの行程など、こんな地味な作業の繰り返しだ。しかし、この時点での確認作業が、完成品のデキ、不デキを左右するといっても過言ではない。極めて重要なサンプルなのである。

 さてこれを着てみよう・・・ん?、やはりレーシングスーツ用のプロテクションは、ソフトな生地との相性が良くない。これは当然なことで、“ヒョウドウ”のプロテクション仕様ナイロンジャケットでも、この頑丈なパッドではなくソフトパッドの装着だ。いやいや、これは厄介なジャケット作りになりそうだ。早々兵頭氏に電話をかける。
 「でしょう? そう簡単なことじゃあないでしょ〜?」
 「よ〜し、変更点を書いて送るから、もう1回シーチングサンプル、挑戦しよう!」
 「冗談じゃないっす、こっちだって忙しいんだから!」 と心の中で思っても私に遠慮して言えず、
 「了解です。」とこころよい返事。聞きしに勝る遠州一の職人魂を持つ若社長だ。(サービス表現含む)
ちょっとショボイけど第1サンプル完成



レーシングスーツ用のプロテクションパッド。こんな頑丈なものを装着して、はたして着心地は?
安全性を高めれば、着心地が犠牲になるのは常識。しかし、できうる限りの作り方で、その犠牲を最小限に抑えられるはずである。


(兵頭氏:理想の談)


次は、浜松発シーチングサンプル2号完成


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