三備産地

岡山県備前市から広島県府中市に至る旧山陽道(ほぼ現在の国道2号線)に沿う地区は、昔の国名が備前・備中・備後であったことから「三備産地」と呼ばれる。
周辺地域は江戸時代から温暖な気候と豊富な水を利用した綿花と天然藍の一大産地として発展し、藍染の木綿製品を特産として栄えた歴史がある。

三備産地の「備中小倉(びっちゅうこくら)」「備後絣(びんごかすり)」は、1960年代には国産生地の実に7割(!)もの生産量を占めたほどで、現在も大小多くの繊維工業が点在している。
インディゴ染料と天然藍との違いは不純物の有無で、化学組成は同じ。つまりデニムは古来から親しまれる藍染の綿布と同様と言えるので、日本中で愛好されるのも納得である。


「九州龍馬通り」より借用
龍馬とデニム!?

備中小倉は通常の糸を3〜4本より合わせて織るガッシリ厚手の生地で、その丈夫さは袴(はかま)や帯の素材として武士に好まれた。

袴と言えば、大河「坂本龍馬」の制作にあたり、龍馬の袴の質感をリアルに追求した結果、時代背景的にはありえないデニムに行き着いた、というエピソードがある。ちなみにその袴、「龍馬デニム」と呼ばれるとか。

しかし、デニムが偶然似ていたのではなく、必然と筆者は考える。龍馬の袴はまさに現在の日本製デニムのルーツとなる、藍染の備中小倉だったに違いないのだから。
デニムとブーツ…そりゃあカッコイイはずである。


さらにあの人まで!
岡山までの移動の途中に、坂上カメラマンと共に別件の仕事をこなしてから(人遣い荒いっす…)前泊し、デニム生地を織る工場に向かう。なんでも、最寄の井原(いばら)の駅はえらく個性的らしいので寄り道。

田園風景の中を走る井原鉄道。

井原線は一部高架の単線。


おお〜!確かに個性的。デザイナーズ物件ですな!



…矢?

扇…だよな…?

えええええ〜!?

那須与一(なすのよいち)!!

源平屋島の戦いで舟上の扇を見事射抜いて見せた、弓の名手。武功を上げて備中周辺を荘園として与えられたそうだ。
その舞台となった地に構える「屋島工房」、与一も使ったであろう弓用のゆがけと呼ばれる手袋にあやかった「うましかグローブ」と、非常に縁のある武士なのだが、まさかデニムまでとは…。




駅にはそこかしこに与一を讃える造形が見られ、領主としても人望を集めたことが伺える。時代を超えて語り継がれ、今なお愛されているのだ。
こうして伝統を重んじる地域だからこそ、現在のジーンズ産業があるのだろう。



駅舎内に…
駅に入るとまず目に付くのが、なんとジーンズショップ!駅で地域の特産品が販売されていることは良くあるが、国産ジーンズ発祥の地である井原では、まさにデニムが特産というわけだ。

ショップ内の半分は工房となっており、裁断や縫製などひと通りの作業ができる設備が整っている。オリジナル商品のクオリティーも高く、一見の価値あり。


鉄道高架の下は近隣住民の物置スペース。
その側道でデニムを織る現場へ向かう。



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