2014年8月4日午後

 仕事をやりだしたら切がないので、昼飯後はツーリングに徹する。向かうは標高1918mのしらびそ高原。とても涼しく、それはそれは素晴らしい景色なのだ。



空は白から灰色のグラデーション。


のどかな山里を軽快に走行。


山の中を制限速度(60km/h)でのんびり。



カンバンもそう言ってるのでパワーダウン。


突然、高規格道路。

写真を撮っていると、インから古山号が追い抜いてゆく。

 しらびそ高原へは過去に2回訪れている。その3000m級の山々が目の前に連なる雄大な景色を古山にも見せてあげようと思った。そうすれば今朝の転倒のちっぽけなキズ(心とバイクの)も、きっと忘れるのではないかと考えたから。

 飯田の市街地から狭い県道251号を山奥へとくねくね走ると、突然、高規格のループ道路が現われる。ここから先の数キロは125cc以下禁止の自動車専用道路で、やがてすぐに矢筈(やはず)トンネルに入る。
 トンネルに入った瞬間、涼しいを通り越して「寒っ」。長さ4176mもあるのだから、ずっと寒いわけで、あとで古山に聞いたら、VFRの温度計は20度だったそうな(トンネルに入る前は26〜28度)。
 



 4キロ少々ある寒いトンネル、その長い距離にもかかわらず、先行するクルマもいなければ、対向車も2〜3台すれ違った程度。ここは将来いつ全通するか分からない三遠南信自動車道(さんえんなんしんじどうしゃどう:中央高速道 飯田東インター 〜 新東名高速道 浜松いなさジャンクション)の一部区間なのだ。
 おっ、やっと貫けるな・・・・・。


雨でやがる。


 トンネルに入る前、頭上の空はグレーな雲におおわれていたから想像はしていたものの、トンネルを出れば、やはりそこは雨。
 さっそくレインスーツを着る。クッソー、古山の弊社レインスーツは新品だから、水滴がポロポロと落ちてゆく。それに対して私のは3年間愛用しているので水滴はタラタラと下へ。「ポロポロ」と「タラタラ」、その差は気分の問題だ。(撥水・防水スプレー“アメダス”を吹きかければそこそこ回復するのだが、忘れた)

 すぐ近くの山さえ、雨と霧でかすんでいる。こうなると、ここから約1000mも登るしらびそ高原は、行ったところで何も見えないだろうからあきらめることに。ならばそこがどんな風景なのか、2005年に訪れた時の写真を見ていただこうか。




しらびそ高原:南アルプス連峰を望む。





 しらびそ高原からは、すぐ目の前で手が届くんじゃないの、といった感じで南アルプスの山々が現われる。特に日没まえが素晴らしく、西日が3000m級の山々をオレンジ色に染める。これが絶景なのだ。なお、写真のカッコつけた男は、あの美容師、牧野修一君である。

 さて、今日のところはしらびそ高原をあきらめ、途切れ途切れの国道152号線をこのまま南下して遠山郷へと向かおう。そこにはあの宮内産業さん社長お薦めの「肉屋」があるのだ。





[ここだけの話、その5] ・・・さようなら、RE-05 レインスーツ
21オンスデニムジーンズに続いて、もうひとつ不幸なお知らせをしなければいけない。それは弊社レインスーツが2014年の晩秋をもって最終生産を迎えること。

21オンスデニムのように繊維を織る機械が壊れたわけではない。レインスーツの場合は、生地素材の大幅な値上がりと、製作工賃に無理が生じたのが原因。

工賃に関しては、たとえば2万円台半ばの弊社ジャケットと比較すると、レインスーツは上も下も作って22,000円(税別)。縫製作業はジャケットより簡素化しているが、防水シームテープ加工に手間が掛かる。弊社のように素材も製作も「MADE IN JAPAN」だと、確かに品質は良いが、どちらもが価格高騰すれば、アウト! いきなり「30,000円に値上げですぅ」では、どなたも買ってはいただけないから、次の生産で終了します。


ということで、私は現行の“RE-05 レインスーツ”を3セット確保。そうすればこの先のバイク人生も「日本製」で楽しめるから。
 ・・・皆さまもどうぞ大人買いをお薦めします。(またかよっ)
二輪業界では日本製のレインスーツなんて、おそらく弊社のRE-05が最後かもしれない。ごきげんよう、さようなら。

※RE-05レインスーツは2014年末までで生産終了します。2015年にも一部生産は可能ですが、
生地素材不足のため、オリジナルカラーおよびRE-05仕様ではありません。
RE-05の詳細ページへ >>






山のタンパク質。



 センターラインのある広い快適な国道がしばらく続いたが、やはり、と言おうか、クルマ同士がすれ違い困難な狭い道が現われる。とはいえ、あの長いトンネルを出て、レインスーツを着た所から約15キロを15分で遠山郷に。信号がなく、交通量が極端に少ないから、平均速度60km/hなのだ。(違反してないと思う)



タヌキ


スズキヤの若旦那


バイク乗りにオマケ(ほんとは有料)
 宮内社長お薦めの“肉のスズキヤ”さんに到着。私はスズキのバイクで。それに気をよくしたタヌキのはく製がニカッと迎えてくれる。

 宮内産業さんの社長がなぜスズキヤさんを薦めたのかは、ここの肉はタダモンじゃあないから。牛、豚、鶏はもちろんだが、鹿、馬、ヤギ、イノシシ、熊、ウズラにキジ、そしてウサギも。地元の猟師がとってくる動物が含まれるから、その種類が豊富である。
 人は通常に食する以外のものを“ゲテモノ”というが、これらの肉は私には当てはまらない。ま、通常というわけではないが、前日に立ち寄った大鹿村でずっと以前にはそれらの肉を食っていた(食わされていた)から。

 ここの若旦那と話をしながら肉選び。古山は馬刺しを購入。赤身と霜降り、共に“上”だ(並もある)。
 私は若旦那に聞く。「ウサギってどんな味でしたかねえ」、すると「ものすごく旨い山鳥に似てるかなぁ」・・・よく分かんないけどチョイス。そしてここの自慢の品、ジンギス(味付け羊肉)も。当然こちらも“上”を。せっかくここまで来たのだから“並”ではバイク乗りのプライドが許さない。

 そうそう、ここで肉を買って「バイクで来ましたぁ」と申告すると、開運のお札(シール)がもらえる。二人していただいたのは「イノ、シカ、熊」、チョウではなくクマという、山奥ならではのシャレの効いたお札である。なんだか運が向いてきた(ような気がする)。
 


肉以外にも花札とかツノとかキバとかetc、、、。 スズキヤ自慢のジンギス。

冷凍庫には、いろ〜んな肉がある。自社の立派な精肉加工場を持っているから安心だ。

スズキヤのキャラクターは、カワサキのニンジャに乗るイノシシ。 フェイスブックもどうぞ、という若旦那。なんというか、気さくなお人柄だ。


 若旦那が中心のホームページは、さまざまな肉の販売だけでなく、その肉の料理まで旨そうに掲載している。それだけでなく、遠山郷周辺の観光地(しらびそ高原や下栗の里は有名)や穴場が詳しく案内されているのだ。売る、だけではなく、地域をアピールする心意気が素晴らしい。

 なお、革加工の宮内さんがここスズキヤさんを薦めたのは肉の旨さだけではない。前のページのモモセさんを含めて10数社が集まり「南信州Leather組合」を発足。そしてこの夏、2014年8月9・10日には飯田市内で展示販売会をおこなうのだ。そこには掘り出し物も多くあるだろう。行ってみたい。しかしあと5日間もこの地域に滞在はできない。ひじょ〜に残念だが。

 肉を買って、遠山郷をあとにする。そうそう、ここはあの「遠山の金さん」が、遠山郷の殿様の親類である、というのを当日もらった若旦那の便りに書いてあった。この山奥の“肉のスズキヤ”さん、皆さまもぜひお立ち寄りを。
肉のスズキヤさん公式HP >> (あとでご覧下さいな)

 
どっひゃ〜、近道して豊丘村に向かったら、狭っ!(これでも県道)






豊丘村のタンパク質。

 馬刺しにジンギス、そしてウサギの肉を積んで、酒屋にも寄って、焼酎やウイスキーを買い込んで豊丘村の武田家に到着。

 バイクを庭の奥に入れたら、ニワトリが近寄ってきた。見知らぬ者がいても逃げないとは、さすが落ち武者子孫(俺もか)のニワトリだ。「これ食うと、旨いに」とここの主は言うが、こうまでなついたら、はたして食えるものだろうか。

 今晩はニワトリの出番はない。そんなことしなくても、スズキヤで買ってきたご馳走がたくさんあるのだ。そんな匂いをかぎつけたかどうか、庭の子犬のもの欲しそうな視線を感じる。

またお前らか、でもその肉をくれっ・・・てか。



上赤身と上霜降りの馬刺し。 イナゴとカイコ、そしてハチの子。

 「馬刺し、買ってきましたぁ」、古山が晩飯にと自慢げに提供した。すると武田家の主がポツリと「ウチのおジイはなあ、馬にはさんざん世話になった、と食わんのよ、馬の肉は」・・・やっちまったぞ古山、やばいぞ古山、しかしそういった理由を知らなかったので仕方がない。
 「そうかぁ、農耕で世話になってたのかぁ。じゃあこの家は馬刺しを食ったことないのかあ」と主に言うと、「いやっ、俺は好きだに、この赤身のほうが旨いっ!」と箸をすすめる主・・・なんだ、食ってやがる。ほっとした古山である。

 馬刺しのお返しとばかりに、テーブルにはご当地グルメ、イナゴ・カイコ・ハチの子が並ぶ。これら皆をゲテモノと言う人はいるが、私は特にハチの子が好物で、しかし(ウジ虫みたいな)幼虫ではなく成虫に成り立てのが皿にある。「あれっ? 俺の好きな幼虫は?」と聞けば「昨日みんな食っちまった」と主。何か悪いことしたか。
 イナゴに関してはいたってノーマル。フツーに食えるのだが問題は「カイコ!」。これはモスラの幼虫にも見えるし、私にとってはなんとも言えない臭いのするコイのエサ、まったく頂けない。
 そんなカイコだが古山には「おい、これがこの地域の最高級グルメなんだぞ!」と食わせれば、「あっ、ほんとだ、これはイケル!」と何匹も連続してクチに入れる。「ほ、ほんとうに旨いか」と、半信半疑で私も生まれて初めてカイコを食うが、やっぱり「コイのエサだぁぁぁ」。

 カイコは戦時中と戦後まもなくの重要な動物性タンパク源だったそうな。タンパク質は筋肉や臓器といった体の組織を作り、生命を維持するための重要な栄養素なのだ。肉や魚がほとんど食えない食糧難の時代、この地域(信州だけではないだろう)ではイナゴやハチの子とともに食べられていた。ま、現在はタンパク源の補給という意味ではなさそうだが。。。
※なお、カイコについては“新ニッポンの伝統文化シリーズの中の、
このページを参考に >> (あとでご覧下さいな)



豊丘村の秋の味覚は・・・

ついでといってはなんだが、秋の旨いもんも紹介しよう。2013年の11月に武田家を訪れた時のことである。

マツタケ
私の目の前にあるのは豊丘村特産のマツタケ。この村には赤松の林が多くあるからだ。
まずこれを焼いて頂く。しかし1本食えば十分で、残り(2本だけではない)はスキヤキ鍋にぶち込む。マツタケ以外は見えない状態で。それを庭のニワトリ小屋から取ってきた超新鮮な卵につけてクチにほうばる・・・なんと贅沢なのだろうか。ちなみに武田家の主はマツタケには手をつけず「もういらん、飽きた!」、だって。

市田柿(いちだがき)
全国にも名の知れた、南信を代表する地域ブランドが市田柿。限定された品種の高級干し柿である。
ここ武田家でも作り続けており、私が小さい頃はオヤツ代わりに毎日食わされ、旨くもなんともないと思っていたが、約40年ぶりに食ったら、これがすごく旨いことにやっと気づいた。なお訪問時の11月は、まだ吊るしてある状態で、食えるのは12月中旬だそうな。今年もまた送ってもらおう(あつかましい)。



 武田家の食卓には、馬刺し、カイコ、イナゴ、ハチの子、自家製のさまざまな野菜、そして私が持ってきた伊豆の干物、それらをビール、焼酎、日本酒、ウイスキーが畳の上で待機。そしてしこたま食って飲んで、〆はデザート・・・もちろん桃だぁ。

 桃を食いながら古山が言う。「ウチの会社でも桃を扱っているけど、こんな立派な桃じゃあない」。
 古山は成田空港近隣で、日本から諸外国に貨物を輸出する際に税関に対して行う輸出申告を各荷主に代行する仕事をしている。その中に桃も輸出されていると言う。しかし桃は足が早いから、だいぶ硬いうちに出荷し、陸路や空路、そして海外の店頭に至る長い流通時間で熟すので、ここ武田家の桃とはまったく違うのである。ま、古山も(柔らかい)弊社を退社して、ずいぶんと硬い仕事を選んだものだ。(私とちがって頭がいい)

 今日の仕事とショートツーリングでの程よい疲れもあって、夜11時には早々と宴会を終了する(夕方5時から飲んでいる)。明日は再度畑に行って、桃をとって東京に持って帰るのだ。
 で、武田家の主に、明日の朝何時に桃畑に行くのかと聞けば、「朝4時過ぎに朝飯食って、5時には畑、、、って無理だら? だもんで7時に起きて飯食って、8時に桃畑だに」。よしわかった。ならば速攻で寝よう。寝床には昔と異なる近代的な?蚊帳(かや)がかぶさっていた。


南信のタンパク質をたっぷり補給して就寝。


<< ツーリングメニューに戻る 最終話へ >>