2009年5月24日


 海岸線から2キロほど山に向かったところにある一軒宿の桜田温泉 山芳園(さんぽうえん)に着いた。
 この宿、いわゆる高級旅館という部類に入り、リーズナブルな宿代ではない。しかし安くても高くてもダメなところはダメなわけで、この宿の場合は、その価格に見合った内容が十分満足のゆくものであるから、けっして高額ではない、と判断する。
 また、この宿に10年近く前から泊まって以来、全国の温泉宿選びにおおいに役立たせてもらっているのは事実である。そのへんのこと、皆さんの宿選びにもお役に立てるのではないかと思うわけで、それがこのページの趣旨でもある。

 なお山芳園の主人は「俺んとこは高級民宿なんだ」という。そう言われても、とても民宿には見えないが。


 この“超高級民宿”には室内バイク専用駐車場(といっても主人の作業場、いや遊び場か)があるのだが、V MAXは撮影のため出入りがめんどくさく、門の中に止めさせてもらう。
 さて真っ先に恒例のビールを飲んで温泉にササッと浸かって(その間に坂上カメラマンのV MAX撮影に付き合って)メシだ。
 温泉を語る前に、ここで宿のメシ、酒、そして竹炭という、やや妙な組み合わせの話にお付き合いいただきたい。


宿のメシの話

 我らは年に十数泊の温泉宿に泊まっている。その湯については、調べに調べて泊まるので“当り”はほとんどだが、問題はその宿のメシ。これが「おいおいっ」てとこが案外多いのである。
 その「おいおいっ」とは、、、山の中で「しなびた刺し身を食わすんじゃねえ!」ってこと。海から離れた地域の宿では、山の幸に期待して来たのにガッカリすることが多々あるのだ。
 では海岸線に近い地域の宿、たとえば伊豆ならどうだろう、、、もちろん海の幸が中心なのだがこれも「おいこらぁ」がある。・・・なんで伊豆に来てホタテにタラバガニなのよ、北海道じゃないっつうの。ズワイガニ?そうじゃねえだろ、これベニズワイだろ(ズワイガニは越前ガニ・松葉ガニともいわれる高級なカニ)、伊豆じゃあ獲れねえだろがぁ。。。(西伊豆のカニとしては駿河湾深海のタカアシガニが有名だが、これも高価)
 いままでにこういった宿に泊まっていて、どうにも疑問に思っていたのである。

山芳園の今夜の海の幸:アワビの踊り焼き、タチウオの石焼、トビウオ・イサキ・伊勢海老の刺し身。

 山芳園が伊豆の常宿(といっても年平均1泊だが)となったのは、そのメシにも魅力があったからなのだ。
 ここでは地元の松崎や田子の漁港に上がる旬の海の幸が中心となって夕飯に並ぶ。やはりその地に来たら、その地物といわれるものが食いたいのだ、私は。
 そこんところは全国宿探しの際に、各宿のホームページで料理のページをしっかりと見れば地物の料理にありつける。まあ客側にもそれなりの調べる努力が必要だが、宿側も料理に関してあやふやな表現をしているところが多いので、見極めが肝心。
 で、山芳園のその味はどうかって?、、、そんなヤボなことを聞かれても困りますなあ。。。


酒の話

 ビールを持って宿の主人がお出ましだあ。通常、女将さんは客の前に現れるのだが、その主人というのは陰に隠れた存在である。しかしこの宿のダンナは違う。しょっちゅう顔を出すのである。
「いやぁ〜今日はでっけえバイクで来たなっ」
 ・・・タメグチ、、、そうじゃねえだろ、
「いやいや今日は大きなバイクでお越しいただいて、さぞかしお疲れでしょう。私ども自慢の湯はいかがでしたか。さっ、湯上りに冷た〜いビールでもいかがですか、さっ、どうぞ、どうぞ」
 となぜ言えぬのだろうか。とはいえ普通の客には敬語で挨拶を交わしているところをみると、私は普通じゃないってことなのだろうか、客なのに。そこは不明。
 なお、女将さんも我らとの会話に敬語はない。敬語でしゃべってくれるのはダンナ夫婦の息子、そして仲居さんくらいだろうか。ま、それも悪くないが。


 ダンナから注がれるビールのコップ、そして日本酒のオチョコも竹炭製である。そこもこの宿の特長か。そしてダンナいわく、
「俺の焼いた竹炭のコップで瓶ビールを飲むとね、生ビールになっちまうんだ。日本酒の普通酒は高級な吟醸酒になるかな。焼酎だって、そりゃあ旨〜いもんに変わっちまうよっ」
 おいおい、そんなわけねえだろ、と飲めば、そんな感じがするから不思議だ。
「ほんとにそうなのかなあ。ダンナぁ、この日本酒はどうよ!さあ」
「オレはね、アルコールだめなんだぁ〜」
「えっ、飲めないのぉ〜!?」
 なんだか説得力に欠ける会話だが、その竹炭の効果にはまともな根拠がある。その竹炭の話を解説しよう。(やはり濃いのかな、このサイトは)

 ちなみに、アルコールがダメなダンナであるから、どの酒が旨いのか分からないのだから(普通のはあるが)特にお薦めの酒類をこの宿では扱っていない。
 だからこの宿の酒類の持ち込みは自由。そのための冷蔵庫も各部屋に用意されている。私の場合、松崎町の酒屋であれこれと酒を買ってから宿に入るのだ。これは酒飲みにとってありがた〜いサービスなのである。(安上がりだしね)


竹炭の話

 竹の炭のことは、この宿に最初に訪れた時から知っていた。しかし「めずらしいコップで飲ませるなあ」とただ思っただけ。それから数年後の2007年、とあるきっかけで竹からあのコップになるまでを探ってみようと、ダンナと行動を共にした。
 まずは竹を切りに行くことから。この時も坂上カメラマンが同行していたので、その写真をもとに説明ができ、助かる。

 ダンナの軽トラの後についてゆく。宿から伊豆の山中に向かって15分少々のところにダンナの竹林がある。春のある時期には、そこで取るタケノコを宿の料理に出すというが、私はまだクチにしたことはない。
「おっ、これがいいな。じゃあ、切ってちょだい」
 なんだ、俺がきるのかよ!と思うも、小さなノコギリで、それはそれは立派に育ったモウソウ竹、その根元に刃を引く。



 竹は中が空洞のため、それほど苦労せず切り倒せるが、なんせ背が高く、それを軽トラのある道まで運ぶのがたいへん。
 切り終わった竹は適度な寸法に切り刻み、そして第1の炭焼き小屋に運ぶ。あの硬〜い竹炭を作るには、第1、第2と2度の炭焼きが必要という。

炭焼き小屋へは竹林のさらに山奥へと進む。未舗装林道じゃねえか、聞いてねえよ、ダンナぁ!


これが第1の炭焼き釜である。


 炭焼き小屋の周りにはオレンジ畑があり、これもダンナの畑仕事らしい。ほかにも栗やらシイタケやらを育て、宿のメシの材料としている。なぜ、山や畑仕事なのか、あとで女将さんに聞いたら東京農大出身ということでうなずける。
 第1の炭焼き釜を開け、焼きあがった竹炭のコップのデキを真剣に見つめるダンナ。
「なるほど〜、いいのが焼けたじゃないのぉ」と声を掛けるも、
「いやあ、10個に1個できれば上等だよ。あとはみんなツブすんだな」・・・ツブす?もったいない。
 焼いてる最中にヒビが入ることが多く、販売用のビール用コップならば、第2の炭焼きを終えるまでには20個焼いて1個程度だそうだ。(販売用にできないカップは宿で使用とのこと)
 では第2の炭焼きは?と聞くと、「そりゃあ企業秘密だわ」と。俺がそれを見てマネするわけないべぇ〜と思いつつ、なんだか竹炭のコップでノーベル賞を目指してるとかなんとか。本気だか冗談だかよく分かんないダンナの炭焼き仕事風景であった。


竹炭だけではない。炭になるのはなんでも釜に放り込む。カボチャやオレンジも。 オレンジの葉っぱの炭を見つけた。「これちょうだいな」で、いただき。

上りより帰りの下りのが怖い未舗装林道。ゼファー750で良かったぁ。V MAXだったらゾッとするね。


第2の釜を経て完成の竹炭カップ

「この太い竹がね、炭にするとこんなに小さくなっちまうんだ!」
 なかなか奥深い竹炭コップ作りである。しかしこのダンナ、コップだけに専念しているわけではない。竹炭はこの旅館におおいに活躍している。
 たとえばメシ、、、といっても私の場合はメシ=酒だが、この宿ではダンナの竹炭を入れて飯を炊く。ふっくらとしてツヤがあり美味しく炊けることは広く知られていよう。
 ほかにもたくさんある。花が長持ちする花瓶。池に入れて善玉菌を増やし藻を減らす。そして宿のいたるところにある置き炭は、脱臭・除湿効果と。
 ・・・脱臭・除湿といえばもうひとつ忘れてはならぬことがある。この宿はお客が着くとすぐ、その靴に竹炭を入れる。翌日には爽やかな靴でお帰り願おうというわけだ。そこに目をつけたのが夫婦坂である。

 2008年の春以降、弊社ペアスロープのブーツをお買い上げ頂いた方なら“伊豆の竹炭”がその箱に入っていたことでお分かりだろう。そう、その竹炭は山芳園のこのダンナが焼いたものなのだ。
 人の手足はもっとも汗が出る部分。一般の靴とは違い、高さのあるブーツは通気が悪く乾燥しにくい。そこで脱臭・除湿効果を発揮するのが竹炭ってわけだ。
 普通の炭より効果的。しかしちょっと贅沢(高価)な竹炭ではあるが、それを弊社がブーツにサービスできるのも、直でダンナの宿から買っているので可能となったのだ。

左が弊社用、右のオヤジ(ダンナ)マーク入りが山芳園お客さん用。弊社の方が量が多いのはブーツ用の為。春から秋、そして足のクッセェ〜人には効果的。
※弊社ではより増量の販売用竹炭もあります。1足分500円。
  [ 詳しくはメンテナンスページの“ブーツのメンテナンス”へ >> ]


2007年の山芳園訪問時:リーガルコーポレーション製の試作テスト用R-01(左)は私。カミさんは頑丈なショートグフ。今回訪問の2009年はその逆パターンである。(カミさんはR-06)


 おっと忘れるところだった。竹炭コップの酒が、なぜ旨くなるのか。その根拠も語ってもらわねばならない。
「それはね、竹炭がね、酒をまろやかにするんだ」
 「どうやって?」
「竹炭が雑味を除去してくれるのさ」
 「なぜそうなるのかな?」
「竹炭だからさ」
 「・・・・・・???」
 まっ、まあ旨くなったような感覚はある。竹炭で飲む雰囲気で旨さを増幅させているのかもしれないが、いいじゃないでしょうか。酒は気分で飲むものだから。理由はなんだろうが、旨く感じればそのほうが良いに決まっているのだ。

※竹炭コップ:私は買って我が家に常駐させてますが、山芳園では販売してる時もあり、してない時もあります。ダンナの仕事ぶりしだいってとこでしょうか。直接、宿に泊まって話をすれば、手に入れることが可能ではと思います。
(ビールコップ:5000円くらいかな、 おちょこ:2000〜3000円だったかな)
桜田温泉 山芳園HPへ >>

<< 第1部メニューに戻る 第3話へ >>