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 単車オヤヂとの対戦は、俺の不戦勝というかたちであっけなく終わった。本日2回目の走行は、レーシングスーツやグローブ、ブーツのサーキットにおける機能性を考えながら走ってみようと思う。ただし、プロテクション効果の実証をするつもりはない。ワザと転けるバカはいないだろう。(自走で帰れなくなるしね)
 息子を先にコースインさせて(接近すると疲れるから)入ろうとすると、後ろから声がかかる。
 「んちわ〜っす!」 「ちゃ〜っす!」
 保安部品のついてないサーキット仕様のBMW R1100SとMVアグスタ750、ビッグマシン(某出版社)営業部の二人だ。
 こやつらは、計画的に俺を待ち構えていた。シールド越しの目は、すでに三角につり上がりつつある。ここで逃げたら、あとで何言われるか分からない。さりとて、勝負して負けても同じこと。どうせ言われるなら、、、売られたケンカは買わねばなるまい。
某出版社の2台を引き連れてコースイン。救急車は着いて来なくていいっ!

[ちょっと宣伝]

グローブは、プロテクション機能重視の、しかしサーキットでもツーリングでも操作性抜群のGR-21K。その秘密は、高価な希少なキップ牛革を使用。[限定販売品] グフ-7 2.2mm厚の頑強な牛革製のツーリングブーツ。案外歴史は古く、1986年からマイナーチェンジを繰り返し、作り続ける定番品。現在ブラックのみが販売品。

グフ-7の初期型は、意外にもレーシングブーツ。
これは元GP世界チャンピオンのコーク・バリントンが、1986年に鈴鹿8耐で使ったもの。決勝で2度転倒するも、気合いで8位入賞(チーム名:“ペアスロープ with B!)。
なお、レーシングスーツもグローブもペアスロープ製(バリントン氏にあげちゃったから無い)。当時、弊社はバリバリのレーシングギアメーカーであったかもしれない。
今はそんな面影、うっすらと製品に見え隠れするだけですがねえ。。。

宣伝おわり。


 サーキットに来ると20年ほど前の記憶がよみがえるものだ。おそらく、弊社の現在のお客さんは、当時レーシングギアを作っていたことや、貸切サーキット走行会を頻繁に主催していたこと、ましてやチームを作って鈴鹿8耐に参戦していたことなど、知っている人はほとんどいないだろう。それよりも現在は、大人しいデザインのツーリングギアを長年作り続けているメーカーだと認知されている。ほんとは、レーシングから始まり、その機能を考慮しながら、だんだん角がとれて丸くなっちゃった!が正解。
 とは言っても、もう作れませんよっ、レーシングスーツは。ブランクがありすぎて、その間の進歩がいちじるしく、ヒョウドウ社のような最新技術のレーシングスーツなど、逆立ちしても無理。はなっから勝負にならない無駄な戦いはしないのだ。(でも2007年の春までに、不利であるが決着つけないとならないケンカを売ってしまった。)


 
松下がコースイン。


こやつとは無駄な戦いをしない。


松下全開全速!無謀にも元GPライダー八代氏と戦っている。


無理すると、転けるぞっ!



おっと、松下か? いや違う、、、残念!


“転倒者、バイクを追う” ヘアピンでは、この日、10台近く転けているが、皆さんピンピンしてる。 でもステップ周りやカウルに“草”ついたままピットに戻ると、恥ずかしいだよなあ、これが。「俺、転けましたぁ!」って、言いたくないのに公表してるようなもんなので。。。


 単車オヤヂの息子、ダイスケがニコニコしてやって来た。
 「俺、今日、乗れてるんスよぉ。オヤヂの古っちいBMWで、最新のCBRをぶっちぎっちゃいましたよぉ」
 あのなっ、ダイスケが速いんじゃなくて、CBRに乗ってた人が、もんの凄〜く遅いだけなんだぞ! と言いたかったが、あまりにも嬉しそうに話すので止めておく。
 「あの〜、息子さんと走ってもいいっスかぁ?」
 「おぅ、いいよ・・・?」
 あっ、いや、ちょっと待った! 単車オヤヂのカタキを取ろうと、まさかサーキット2回目で、レンタルスーツで(これ関係ないか)、俺の息子に勝負をかけるつもりなのかぁ?・・・そんなことを言う間もなく、ダイスケは我が息子を誘う。
 「おい、お前達!レースじゃないんだから、競争するなよ! 分かってるな!」
 まあ分かってないだろうな。大学は明治(ダイスケ)と中央(息子)、それらオヤジは敵対的?同業社・・・仕方ないかぁ。
「このスーツはサイズが合わなくて速く走れないんで、オヤジのと交換しますぅ」・・・いや、遅くなると思う。。。

ぜったい無理するなよ〜、に“ダメ”かよ。



先頭から、松下、ダイスケ、我が息子、某出版社営業。







 古くて重いBMW K100、そのあとにちょい古ツーストR1Z250がコースイン。心配してか兄貴分の松下がそのあとを追いかけてゆく。
 ストレートでは有利なK100だが、なんせ重い。ヘアピンやシケインではR1Zに対して、圧倒的に不利であろう。案の定、1周目で200mほど後ろにいたR1Zだが、ほどなくK100の真後ろに着く。
 自信過剰ぎみと思えたダイスケだが、なんのなんの、あんなバイク(失礼!)で、しかもサーキット2回目でこのペース、このライディングフォームは立派なものだ。
 松下が先頭でペース配分してるから安心だ。と思いきや、ヤツは八代氏とぶっ飛んで先へ行っちまった。(あとでイジメてやる)
 もう、息子がダイスケを抜いて、ダイスケが熱くならないことを願うが、その願いむなしく始まっちまう。頼むから転けるなぁ〜!
 








あと3分で走行終了。ヘアピンからホームストレッチに場所を移す。





R1-Zにつづき
俺と単車オヤヂの前を
大輔のK100がフルスロットルで通過。

そして、数秒後、、、







 ピット前のホームストレッチ、我が息子を追い、猛然と通過するダイスケ。 と、次の瞬間、目を疑うような光景が。
 おそらく120km/h以上出ている第一コーナ手前ブレーキングポイントで、こともあろうに後輪タイヤがホイールごと外れてブッ飛んでゆく。そして昼間なのに、それはそれはキレイな火花を散らして、後輪のないBMWは、100mほど先のオフィシャルポストめがけて大滑走! ダイスケ、ちょこりんとシートに座ったまま。
 こんな派手なアクシデントは、今までに見たことがない。しかも、かすり傷ひとつ負わず、後輪が無いのに転けてない。スタントマンだって、そう簡単にできるもんじゃないだろう。
 もしかして、単車オヤヂ息子は天才なのか?大強運の持ち主か? 普通じゃねえな。。。
BMWの名誉のために言っときます。あきらかに整備不良ですな。



 BMWってのは、タイヤがなくても転けずに真っすぐ走れるバイクだと初めて知った。 そして今日は、参加約90台のうち、10台ほど転けた。それでも大半はかすり傷程度。
 そう、レーシングスーツの機能的役目を確認した人が、数多くいたわけだ。
 楽しいよ〜、サーキット。
 転けても、負けても、勝っても、10代の若者から60過ぎたオヤジまで、みんなニコニコしてるんだ。

 でもレーシングスーツを買ってまではなあ? レンタルもなあ? と思う人は待っててちょうだい。 きっと作りましょう、サーキット走行可能なツーリングスーツ!
 さて、どうやってHYODよりカッコいいのを作ろうか。。。


やがて、サーキットのトラックに積まれた例のBMWと単車オヤヂ息子がうなだれてやって来た。「う〜ん、帰りはオヤジとニケツかぁ、ヤダなあ〜」





翌日、ライコランド環八蒲田店に行くと、ピット前には見せしめのようにタイヤのないBMWが放置されていた。
その夜、単車オヤヂと俺は、反省会と称してネオン輝く街中に消えていったのは言うまでもない。
夫婦坂サーキット愛好会 三橋でした。


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