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 世の中には「通」と自称する、または言われる人は多い。生粋の讃岐っ子である尾原君は、間違いなくうどん通であるが、私の場合はといえば、うどん通でも、蕎麦通でもない(酒通とかツーリング通とかはたまに言われるが)。だから、我々の蕎麦評価など、けっこういいかげんなものと、あらかじめ理解してほしい。ただ言える事は、讃岐うどんと比べてどうなのよっ、てことくらいだろうか。(そんなの比べるもんじゃねえ、と言う人も必ずいるでしょうが、あえてどちらが旨いか述べます)
 長野自動車道、豊科インターを出て15分ほどの穂高町。この地区には、ネットで調べただけでも10数軒の蕎麦屋がある。その中で、とあるサイトに“こだわり系”と謳われた蕎麦屋をまず始めに訪ねた。(シロウトは“こだわり系”という言葉に弱いものです)

 最初の1軒目・・・。真っ白なのれんをくぐり店内に入る。なるほど、庄屋の農家といった厳格な作りだ。すでに蕎麦を目の当たりにする前にワクワク感が漂い、尾原君は「ざる蕎麦」、その他3名は「辛味大根おろし蕎麦」を注文。ほどなく出てきた「辛味大根おろし蕎麦」を喰う。・・・大根がここまで辛いとは、、、口の中がひりひりして蕎麦の香りも味もまったく分からん(3名同感想)。やはり、シンプルなざる蕎麦が正解かと、無言で喰い終わった尾原君に感想を尋ねると・・・「分からんですわぁ。うどんの旨い、マズイはひと口で分かりはるけど、この蕎麦は、、、旨いかどうか、よく分からんです。すんまへん。」 “通”とははるかにほど遠い我々であった。 

穂高町の数ある蕎麦屋の中で、蕎麦ネット上のこだわり系と謳われた店であったが、さて我らシロウトの評価は・・・。

初めて口に入れようとする信州の新蕎麦を前にして、嬉しさがこみ上げてくる“うどん先生”尾原君。



 2軒目・・・。どうにも納得がゆかぬまま、1軒目の蕎麦屋を出て走り出すこと数分、これまた蕎麦サイトに載っていたこだわり系“ながみね”に到着。店構えは、、、なんてことない食堂っていう感じ。店内は、、、1軒目のそれらしい厳格な店に比べると、まったく正反対の小さな、そして素朴な食堂である。いったい何がこだわり系なのであろうか。
 ところで、今日の天気は、「晴天」の天気予報とはかけ離れた、「曇り時々ポツリと小雨」。しかも異常に寒いときてるから、カミさんと店に入るなり「あったかい山菜蕎麦二つちょうだいっ」となる。本来はざる蕎麦のつもりではあったが、もう寒さには勝てず、蕎麦コメントはざる一筋の尾原君に任せるとしよう。
 この“ながみね”、バアさま一人でまかなっているようで、とってもスローなペース。先客の器かたづけに5分、お茶が出るのに5分、お新香はさらに3分、そして本命の蕎麦が出てくるまで、またさらに15分後といった具合。他に客は2名しかいないのにである。しかし、先ほどのクールな蕎麦屋“○○○”のあとのせいか、妙に温か味を感じる店で、待たされても、そのバアさまの笑顔で簡単に許せてしまう。
 さて、主役の蕎麦の味は・・・冷えきった体に温ったかい蕎麦、あのバアさまが作った蕎麦がまずいわけがなく、身も心もあったまりました。きっと、蕎麦サイトで“こだわり系”と載せていたのは、蕎麦だけのことではなく、バアさまを含めた店全体の総合的なコメントだと判断する。
 
店の外観は、地元の人々の食堂と言えよう。

懐かしい黒電話。その奥でバアさまが一生懸命に蕎麦を作っている。

尾原家の1才坊やに、リンゴジュースのプレゼント。「お茶じゃ、かわいそうだわねえ・・・」

絶妙な塩加減と漬け具合、いい味だしているバアさま特製の白菜のおしんこ。 やくみはネギとワサビの、いたってシンプルな、ざる蕎麦600円。 秋なのになぜか山菜蕎麦700円。やはり具はキノコのみだが、細かいことは言いっこなし。



「う〜ん、さっきの店よりコシがないけど蕎麦っぽいですわぁ」、なんだかよく分からんコメントは“うどん先生”尾原君。


讃岐うどんの話を少しばかり・・・信州蕎麦と讃岐うどんの第一の違いは、その価格だ。信州のそれは500〜1,000円、讃岐うどんは100〜300円が相場。なぜそれほどの価格差があるのかといえば、蕎麦粉より、うどん粉(小麦粉)の方が安く、手間も異なるから。
そして第二の違い、極めて個人的な見解だが、カッコつけた店内で行儀良くすする(音は別)蕎麦屋に対して、讃岐のうどん屋は立ち食いだろうが、道端に出て喰おうが(狭い店は)、行儀などおかまいなしの超庶民的。小中学生のこづかい銭で気軽に喰いに行けるか行けないかの差がある。
究極の讃岐うどん“谷川米穀店”:私の一押しのうどん屋を紹介しよう。とは言っても、もうすでに穴場でもなんでもなく、讃岐うどん通なら誰でも知ってるメジャーな存在の谷川米穀店である。その名のとおり米屋が本業で、うどん屋としては11〜13時の短い営業時間(だからいつも行列)。ひと玉100円のゆでたてのうどんを受け取り、薬味のネギ、唐辛子、スダチを自分の好みで入れ、独特なしょうゆをかけて喰う。ツルッときてシコシコッとした食感、その味ときたら、、、絶品ですな。ほんと。たった100円で。
なお、ここにはそばもあるが、だれも喰っている気配がない。10円も高いからか、いやあ、あまりにもうどんが美味すぎるからであろう。



 信号機よりもうどん屋のほうが多いと謳われる香川県讃岐で生れ育ち、生活をしている尾原君、さあ初めて食う信州新蕎麦の感想は、「2軒続けて食べたんやけど、ほんとに旨いのかどうか、すんまへん、よく分からんかったですわ。やっぱり讃岐うどんのほうが相性がいいみたいで・・・」。なるほど、私にしても年に2〜3回の信州ツーリングで、必ず食っている蕎麦なれど、同じような感想を持つ。讃岐うどんのほうが分かりやすいのである。それに、讃岐うどんは500円玉にぎりしめて旨いうどん屋に当たるまで3〜4軒のハシゴができることを考えると、今日のところは、ちょっと信州蕎麦に分が悪いかもしれない。“蕎麦通”には申し訳ないけれど、“通”ではない我々の感想なんてこんなところか。
 “ながみね”の蕎麦屋で、明日は仕事のある尾原君(私はズル休み)、そして奥さんと坊やとはここでお別れ。私とカミさんは白馬へと向かう。気温4度、防寒グローブを持って来ず、手がシビレてきたなかを。
今回見る紅葉は、台風の上陸が多いせいか、ちょっとさえないような気がする。


10月末でこの気温は予期していなかった。

ヤフーもヤン坊マー坊の天気予報も長野県北部は「快晴」、しかしこの空のどこが快晴なのだろうか。白馬はどんよりとした曇り。





天候は悪いし、寒いしで、早めに白馬 八方温泉の宿に行き、冷えきった体を温泉で癒す。そして熱燗とメシ。



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