いやはや難しい話題のページに入ってしまった。ライディングギアについてだけなら、いくらでも書ける。しかしそれに日本酒を融合させなければならないとなると、かなり難問だ。しかも“化学と天然”なんて、学がないにもかかわらず、そんなタイトルをつけてしまった。・・・というわけで、少々無理矢理のこじつけがあるかもしれない。いや、あるだろう。そのへんのところはあらかじめご了承を。

 ついに中門をくぐる。とはいえ旧中仙道沿いの正門から中門までは、ほんの30メートルしかないのに、ここまでの話、おもいっきり引っ張っております。
 で、その中門が武重本家酒造の入り口だ。ようするに蔵元までは、当主の自宅、あの駕籠(かご)のある玄関の横を通り過ぎなければならないわけで、初めての来訪者なら気が引けるだろう。

中門から蔵元が見える。

これが武重本家酒造。

入り口横に、蔵元の商品がずらっと並べられている。それを選んで購入することもできる。

酒を購入するには、建物入り口のすぐ右の事務所。それにしても、ものすごい量の賞状だ。なおここから先は一般来客の立入禁止。

昔の武重家の絵図。きっと江戸時代だろう、よくよく見ると、ちょんまげの商人らも描かれている。さらに注意深く見れば、現在とも変わらない建物風景がある。


米を蒸したり、殺菌したりと、造り酒屋では大量の湯を必要とする。
 事務所から先の一般立入禁止区域に足を踏み入れる。まずは武重氏にボイラー室を案内された。おっ、古き良き文化財建物のなかで初めて近代化学を見た。しかし氏は、
 「このボイラー、修理しながらかれこれ40年、大切に使っているのです。化学〜?」
 武重氏にとっては、単なる古いボイラーかもしれないが、私には古い建物にひっそりと働いているロボットに見えた。ほらっ、丸く赤い小さな目が2つあるでしょう。赤い口もあるでしょう。いくつもの手足もあるじゃないですか。おまけに操作するリモコンも左側にあるじゃないですかぁ、ほらっ。

 “化学”はここで撮ろう。化学繊維と天然繊維のウェアを、理工学部の大学生が着て。 えっ?明治のあんたら文系?、商学部と政経学部? そんなの言わなければ分からないって。。。


「こらっ、笑ってんじゃねえぞっ!」



C-30を着た我が息子ひとりだけが理系だ。中央大学理工学研究科修士。でも専攻は物理であり化学はぜんぜんダメ。


■C-30:天然繊維のコットン帆布(はんぷ)
  ■C-50:天然繊維のコットン帆布の生地に防風・撥水加工の少しだけ化学
    ■STP-09N:撥水・耐水加工スーパープロテインテックスナイロンの高機能化学繊維



 前回下見で訪れた時に、当主武重氏は蔵元の様々な部屋を案内してくれた。蔵元訪問は過去にも山形県で一回あるが、ここまで隅々見学するのは初めてだ。ちょっと寄り道して皆さんにもご案内しましょう。

とにかく清潔でなけれなならない。酒造りに雑菌は大敵だ。ところどころに清潔を謳う札あり。

検査室の“検”、古い字ですねえ。ここは役人(税務署)が酒税を徴収する為の部屋だそうです。 当主は二階に案内してくれた。壁も戸も床も全て木。
ここは米を仕込む重要な部屋。仕込むといっても蒸した米に菌を加えて麹(こうじ)を作り、それに酵母を培養させて・・・難しいです。 その部屋、外の窓から内側まで30センチはある。ここは蔵の中にもうひとつ家があるような作りで、昔ながらの究極の断熱方式。 一階では出荷待ちの日本酒がずらりと並んでいる。昔なら、そのケースは木製であったろう。


 ボイラー室の次に案内していただいたのは、黒く大きな扉がそびえる貯蔵庫。ここは熟成中の日本酒が静かにゆっくりと出荷までの時を待っている場所である。
 恐れ多くも我が撮影隊は、この中で撮ろうという魂胆だ。二輪メーカーは当然ながら、日本中の一般アパレルメーカーでも、蔵元の貯蔵庫でウェアの撮影をするなど、聞いたことも見たこともない。まあ、そんな発想をする者がヘンといえばそうかもしれないが。
 当主に恐る恐る聞いてみる。この中で撮らせてもらえないかと。「えっ、まっ、どうぞ。でも暗いですよ」 いやあ、ありがたい。

“関係者以外の立入りを禁ず”貯蔵庫の厳重な扉。仕込み中の時期であれば間違いなく入れない。(そうじゃなくても一般的に入れるのは年に1日だけだそうだ)

 2週間前の下見でもここには入っていた。その時、外の気温30度。しかし貯蔵庫の中は冷房装置などないのに20度ほどしかなく、肌寒かったのを覚えている。ここも究極の断熱部屋である。

 当主を先頭に、総勢7名の撮影隊が中に入る。日本酒のほのかな香りが気持ちいい。
 「タンク、熱いですよ」と注意を受ける。前回のように肌寒くなかったのは、熱処理中のタンクがあるからだ。しかし触って、熱っ!のでっかいタンクがあっても、やはり外よりも涼しい。

筆者が武重氏に質問するなか、その後ろのほうでは学生どもの感嘆の声、「へぇ〜、タンクひとつに一升瓶5000本分も入ってるんだぁ、俺、一生かけても飲めねえやぁ〜」 単車オヤヂの息子ダイスケは缶ビール1個で眠ってしまう酒弱の体質。


学生だけではサマにならない。やはり年の功である、単車オヤヂ殿の登場とあいなる。そして、伝統とは、文化とは、酒とは、を若者に唱える。

■S-25HTのハリスツイード素材は英国王室御用達のスコットランド製。日本以上に伝統文化を守る国の最高級品。


 上記貯蔵庫内撮影でのコピーにあるように、酒は天然素材で造られてはいるが、自然と勝手に出来上がるものではない。人の手により、菌と酵母を上手く操ってきた知恵、それは先祖代々に受け継がれた化学ではなかろうか。酒は化学と天然が融合された旨い贈り物である・・・と私は思う。
 歴史や文化を別にしたなら、化学と天然においては弊社だって負けてはいない。ペアスロープは天然素材を好んでいることはご承知だと思うが、時には高機能化学素材も都合よく融合させている。天然素材のコットンや羊毛(ハリスツイード)にも、その内側には防風・耐水対策の為の化学素材コーティングを施したり、防寒ライナーに高性能サンステートを使ったり・・・と。 まあ、化学のチカラをまったく無視したら、なにもできない世の中ではあるけれど。。。

貯蔵庫内の撮影を終えて外に出ると、クール宅急便が荷物を取りに来ていた。伝統文化といえど、やはり現代人は日々化学の力に頼っている。


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