2008年10月23日





 深浦の宿を出ると、昨日と同じように海のすぐ脇を走る交通量の極端に少ない国道。空はどんよりと曇っている。朝の天気予報では“曇り”。それでも雨さえ降らなければ良しとしよう。
 五能線の線路がすぐ隣りにある。ここで気動車と並走したら、さぞかし楽しいだろうと思うも、上り、下り列車ともまったく姿を見せない。それはそうだろう。1時間に一本も走ってないのだから。
 いつもならバイク旅にもかかわらず、鉄道時刻表をコピーして持参するのだが、今回はそれを忘れてしまった。せっかく最新版の時刻表を買ったのに。本来、それさえあれば、発車時刻が分かり、偶然じゃなく並走できたのに、残念でならない。カミさんはまったく興味はないが。

 もの凄く目立つ、ピンクのイカのカンバンは、いか焼き村と称した“道の駅 ふかうら”。そのイカに誘われるように入ってみる。朝飯食って、まだ1時間しか経っていないが、食いたくなってしまったのは仕方がない。しかしまだ早い時間なのか、イカ焼き屋はオバちゃん準備中。これも仕方がないから先に進む。



宣伝かぁ?これ。


 千畳敷は有名だ。しかし私の目に写るそれは、ちょっと広めの、平らな磯。とくに面白いわけではない。
 地図を眺めていると、この3〜4キロ先に“日本一の大イチョウ”があると記されている。これまたB級観光だが、ついでだから寄ってみる。
 イチョウの木の50メートルほど手前でバイクを止め、眺めるも、なんだ大きなイチョウの木、って感じるだけで、やはり何の感動もない。
 しかし、、、木の根元に近づいてみると、それはなんと大きなことか。イチョウどころか、その他の木でもこんな大きく太い木はお目にかかったことがない。時刻表のコピーは忘れたけど、カメラの広角レンズを持ってきてよかった。標準ズームレンズじゃあ、とても収まらない大きさだあ。


樹齢1000年以上、高さ31m、幹周り22m・・・でかっ!


 海沿いを離れた大間越街道を、岩木山を右に見ながら青森市へと向かう。途中、五所川原(ごしょがわら)の街並みに入る。なぜかあの歌を口ずさみながら。
 40を過ぎた人ならご存じではなかろうか。吉幾三 1977年の“俺はぜったい!プレスリー”を。
 “♪オレは田舎のプレスリー、百姓のせがれ〜、生まれ 青森 五所川原、いっぺん来てみなガ〜♪” と津軽弁まじりで自分の出身地を歌う。ふざけた歌詞だが曲のノリがよく、フォークギター1本で弾き語りのできる私のレパートリーのひとつでもある。(誰も聞いちゃあくれねえけどね)
 そして1984年には“俺さ東京さ行くだ”もヒットしていた。“♪ハァ、テレビも無ぇ、ラジオも無ぇ、自動車もそれほど走って無ぇ・・・オラこんな村いやだぁ〜♪”って曲。だからか、カミさんが言った。「五所川原ってこんなにクルマが多いじゃない。田舎じゃなくて街じゃん」 これは吉幾三の歌で、そう思い込んでいたにすぎない。戦前じゃあるまいし、1980年代半ばにテレビやラジオはあるでしょ、やっぱり。

右奥の山が岩木山


 やがて国道7号線と合流して、ほどなく青森市内に入る。道幅もグンと広く交通量も多く、都会の街並みだ。
 さて昼、腹も空いてきた。昨日、一昨日と昼はラーメンが続いた。もうこうなればずっとラーメンでいいのではないかと、ラーメン屋を探す。そして国道からちょいと曲がった道にそれはあった。



屋台の味の、○○?という店
青森の地元ラーメンではなくチェーン店みたいだ。
ちょっと筆者の好みとはだいぶ違っていたので、10段階評価は無しにします。



 腹8分目で青森市内を出る。いままで北の方角を目指していたが、ここからの進路は南。国道103号を八甲田の山へと向かう。
 平日と言えど紅葉シーズン、そこそこの交通量を覚悟していたが、スカスカ。これは快適とカミさんペースで流していると、4〜5台の超スローペースのクルマ集団に追いつく。なんで20〜30km/hで走ってんだ?抜いちゃおうか?なんて並走するカミさんとしゃべれるほど遅い。きついカーブばかりで先頭がどのクルマか分からなかったけど、ゆるいカーブで判明、赤灯つけたパトカーだ。いやその前にクルマが1台。
 「抜いちゃおう」と横でカミさんの声。制限速度は標識がないので60km/hのはず。では、と軽くパトカーも抜いて先頭のジイさまのクルマを抜いたら、パトカーもいっしょに着いてきやがる。「あんたはジイさまの面倒をみてな」と思うも、あれっ?赤灯つけてるパトカーって抜いちゃダメなのかぁ? どうだったっけ? でも20km/h少々で走るご老人クルマに、付き合っちゃいられんものねえ。
 で、標高が上がるほどに山の色彩が鮮やかに。。。










 昨日の鳥海山も素晴らしかったけど、紅葉の中を走るという点では八甲田の道が上回る。山のふもと付近の緑の森から黄色、オレンジ、ワインレッド、、、そして落葉の森を抜けたらまたワインレッドの色彩が一面に広がる、といったように。
 海抜900mと標高を上げ、紅葉もすでに終わった辺りを走っていると、硫黄(いおう)のニオイがしてきた。“酸ヶ湯(すかゆ)温泉”である。
 ここには酸性硫黄泉のヒバ千人風呂という混浴のでっかい風呂がある。うわさには聞いていたけど、入りたい温泉のひとつであった。期待して玄関へと進む。前に団体の女性、、、しかしバアさまの軍団だぁ! 残念だけど今回はあきらめることにしよう。(若い女性を期待したわけではない。でもバアさま軍団はちょっとねえ・・・)
 1時間少々前にラーメン食ったばかりなのに、カミさんは温泉まんじゅうを買って食っていた。さあて、これから今夜の宿である“蔦(つた)温泉”を通り過ぎて、十和田湖に向かおう。明日の天気は雨っぽいから、降らないうちに絶景を見ておこうか。。。
 



落葉後のこんな風景も、これまたいいものだ。



ケガ人カミさんの精一杯のコーナリング。



標高が下がると、まだ鮮やかなグリーンの色彩が交じる。




 奥入瀬(おいらせ)渓流へと入る交差点に着く。いままでスカスカの八甲田の道とは相反して交通量が多くなった。おまけに観光バスまで何台も前をゆく。そしてまたおまけに、渓流沿いの道は狭いときてるから、そう簡単には追い越せない。追い越したところでこの交通量だ、キリが無いだろう。まあ、紅葉シーズンで東北一と言われるメジャーな観光地なのだから仕方がない、クルマの流れに従おうか。







 写真は写してないが、渓流沿いの道は平日なのに所々渋滞していた。原因はバス同士のすれ違いの超スローダウンと、クルマの違法駐車。観光バスまでも駐車してんじゃないっつうの。ここ、特に観光シーズン中は、土日祭日に来るもんじゃありませんよ。いったいどういう状態になるのか、想像つきますねえ。

 違法駐車すんじゃねえ、とかなんとか言いながら、我らバイクも道の隅っこに止めて渓流を眺める。・・・なんだ、ちょっと風情があるかなあ、といった川じゃねえか。。。

 さ〜て、あと数キロ走れば、憧れの、絶景、紅葉の十和田湖だ。そしてついに到着!

 ・・・と同時に、雨が降ってきやがる。。。 こういったタイミングで降るかねえ、雨が、、、ふつ〜は。





 せっかく来たのだから、十和田湖を一周する。と、軽く思って走ったが、50キロもあるじゃないか。しかも雨の中のワインディング。晴れていたら、さぞかし快適だろう。絶景であったろう。悔しい思いで、またクルマだらけの奥入瀬渓流沿いを走り、本日の宿、蔦(つた)温泉に到着。こんなんでも、部屋に入るなり、ビールの一杯が死ぬほど旨いのはなぜだろう。




レトロ。

かなり古〜い部屋も。

これぞゲタ箱。

帳場(フロント)です。


我らの試作品ブーツもゲタ箱に。

混浴ではありません。







 “♪ ゆかたの〜きみぃは〜 ススキのかんざし〜” これは吉田拓郎が歌っていた“旅の宿”である(古い!)。
「“旅の宿”は確かこの宿で作詞したんですよねえ」 夕食を並べている仲居さんに尋ねると「ええ、66号室でね」。
「先週、テレビで女優の坂口良子がその部屋で夕飯を食ってたの見たけど、ほんとはそこに泊まってないでしょ」
「ピンポ〜ン! なんで分かったの?」
「昔の部屋で、共同便所だからかな」
「ピンポ〜ン! 正解。お泊り頂いたのは特別室でしたぁ」
「女優が共同便所に入らなんよなあ、、、」 そんな他愛の無い話をして夕飯をいただく。

 この温泉は1174年、今から800年以上前に湯治小屋として存在していたそうな。そして蔦温泉旅館として営業を始めたのは明治時代の1909年である。
 重厚な玄関のある本館は大正時代の建物、その奥の66号室がある別館は昭和35年築、そして我らの部屋は昭和63年築の西館(新館)鉄筋コンクリート製。ほんとうは趣きがあり、眺めの良い別館に泊まりたかったんだが、本館から60段もある階段を上がらなくてはならず、足をケガしたカミさんには無理もあり、あきらめた次第。

 “♪ 熱燗 とっくりの首〜つかんで もう一杯いかがなんて 妙に〜色っぽいね〜” と、“旅の宿”の歌詞はつづく。しかし、そんないい気分で飲んでいる私にカミさんは言う、「まだ飲むの〜?」

(“旅の宿”・・・曲を聴きたい方はこちらへ



[蔦温泉]
一泊二食 ¥9,600円より。
(泊まった部屋は西館で紅葉シーズン料金¥18,000)
夕飯:海から離れているので山の旬が中心だが、海の幸もあり。特に写真の“ホヤの塩辛”は熱燗に良く合う。[ ★7.5個 ]

温泉:源泉の上に浴槽があり、温泉としては少数派の下から湧き出る無色透明無味無臭の単純泉。いい湯だ。[ ★8個 ]



 八甲田の紅葉のワインディングは見ごたえ、走りごたえあり。そして蔦温泉、満足のゆく宿だ。惜しむらくは雨の十和田湖、せっかくここまで来たのに、紅葉の十和田湖をぜひ見たいと来たのに残念でならない。
 部屋のテレビでは天気予報。明日のこの地方の降水確率は90%だと。あ〜あ、もう一杯飲んじまおうか。
 

大正時代の本館の部屋、情緒たっぷり。


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