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2007年12月12日送信 文:いしのてつや 写真:いしのてつや&いけだ







 長らくご無沙汰しておりました"こだわりません。勝つまでは!"でございますが、やっとこさ更新致します。面目ねえことです。んで、これまでの経緯をかえりみると、あらら、牛革のことって、深く追求してねぇんでないの……という当たり前な疑問に到達してしまったわけですな。
 これが簡単そうで、なかなか難しい。たとえば、日本におけるスパゲティの話をしましょうとか、うどんの話をしましょうとか、チューインガムの話をしましょうとかいうのであれば、的が絞りやすいので、ちょっとは検討もつくけれど、いきなり米の話をしましょう……となると、いささか身構えねばならない。実際に、現在に直結する近代皮革文化といえば、明治時代以降の話だから、それほど膨大な時間ではないのだが、身のまわりの皮革製品をみてみれば、どれほど牛革が使用されているかは一目瞭然なのである……というのは、まあ軽い言い訳をしょっぱなに持ってきたってことだす。
 ペアスロープの牛革といえば、現在ではキップ、ステア、但馬和牛の3種類。このホームページやカタログをくまなくチェックして下さる皆さんには既にご存じのことと思われるが、うっかり間違って、突然このページから読み始めてしまったという、奇特な方のために軽くご説明しよう。
◆キップってのは、割と若い牛の皮を革にしたもの。 ◆もっと若いとカーフと呼ばれる。 ◆ステアってのは、穏やかに育った青年って感じのオスの皮を革にしたもの。 ◆但馬和牛というのは、そのまま兵庫県北部の但馬産の和牛である。
 ここで勘違いしがちなのは"日本で生まれたら和牛だっぺ?"ってこと。ちっちっちっ違うんだな。和牛というのは、古来からの血統が日本在来の牛であることが重要で、公正取引委員会でその規定が定められている(食肉の話だけどね)。だから、日本で生まれた牛は国産牛であり和牛も国産牛だけど、ほんの一部ということになるんだな。



左より前回紹介の鹿革、和牛、キップ。質感の違いがわかるよねぇ。牛革はその汎用性と普及率の高さは多種ある皮革のなかでも特別な存在。




 まぁ、難しいことは抜きにして、ペアスロープの牛革を仕上げてくださる姫路の石井商会さんにお話をお伺いする機会を得たので、そのご報告を展開したい!! ということである。
 なんだかんだで、日程も定まらない時期に交通手段だけは三橋氏直々にご指名があった。「寝台列車の銀河で行くがよろし」という鶴の一声である。正直、私は哲ちゃんだが"鉄ちゃん"ではない。故によく分からないけれど、聞けば2008年春のダイヤ改正で廃止する方向性だという。三橋氏が姫路を訪ねる際は、いつもこの銀河に乗って行くという。さすがは"鉄ちゃん"である。
 出発は夜の23時。そこでちょっと調べてみると、その前の22時発で「サンライズ出雲」という寝台特急があるではないか。しかも、そっちのほうが格好良いじゃないかぁ……。でもさ、朝の5時24分に姫路に着いちゃうんだよね。それじゃ、時間配分のバランスが良くないべ、という訳で23時東京発大阪行の銀河、しかも来年にはなくなってしまう銀河に乗ることになった。

 当日、ご一緒したのはペアスロープの池田君だ。若番頭から丁稚まで、幅広い活躍を見せる男だが"鉄ちゃん"ではない……。東京駅に30分前に着いて、銀河の写真を撮ることにしていたのだが、平日深夜の東京駅なのに、"鉄ちゃん"らしき方々が写真を撮っておられる。その横で、おもむろに池田君と私も写真を撮り始める。うひょ〜"鉄ちゃん"みたいだぜ……というか、端から見れば紛れもない"鉄ちゃん"だぜ。でも、トーシローなので先頭車両の機関車が来るのも分からないし、機関車が連結される前の電源車を見て、「ほほう、こんな機関車で引くんだね……」などと感心していたりする間抜け具合である。乗りたくても乗れない、遠方の"鉄ちゃん"たちよ、スマン……。





この電源車を機関車だと思って、珍しがってたヤツがいるんだよ……喝だっ!!


やばいっす。端から見たら間違いなく“鉄ちゃん”だよ。

オイオイ。

いいねぇ、池田君。そんなサイズのバッグは。おやっ……

オハネフとは「オハようネてればフつうに着くよ」の略である(嘘)。

浴衣もあって、結構淫靡な寝台車。

グローブの屋島工房製「BY-1」だそうで。


“鉄ちゃん”はみんなこんな写真撮るよね!?




 んでも、食堂車がないことだけはチェック済みだったので、構内の売店でカツサンドを購入。これが、今回の裏テーマである"東西カツ比較"の序章である。私は、すでにしぼみ始めた脳みそで一所懸命考えた。姫路と皮革の関係である。姫路の皮革産業の中心は圧倒的に牛革である。それに比べて、東京の皮革産業は、皮革なめしの業界でいえば圧倒的に豚革であった。関西には通称ビフカツというビーフカツレツが存在する。東京でも時たま見かけるが、圧倒的にトンカツである。関西ではビフカツとトンカツは両方あり、ビフカツもマイナーな存在ではないという。しかも、食肉業界では"東の豚肉、西の牛肉"という説まであるという。これは、皮革産業とも深く関わっているのではないか? というのが、今回の裏テーマなのだ。それいけ!! 妄想寝台列車!! なのである。
 それにしても、どうせカツサンドを買うなら、万世のカツサンドを買うべきだった。かつての万世橋駅近くに本店を構える万世のカツサンドを購入してこそ東の豚肉……なのになぜ、神戸屋。これって、関西のパン屋さんじゃないかぁ。完全な阿呆である。



駅構内で購入した神戸屋のカツサンド。そのまま終点の大阪まで持っていけば、逆輸入。

東京で買うなら、やっぱり万世カツサンドだったよなぁ。万世橋駅マンセー。

下らないことばかり言っていたら「耐えられません。寝るまでは!!」と言ってとっとと寝てしまった池田君。




 揺れて寝づらいとか枕が違うからとか、デリケートな訳ではなくて、もったいなくてなかなか寝られなかった一夜。まるで、初めての××をした一夜のような気分だが、結局は爆睡しておりそれが明けると、そこは大阪駅。7時18分着である。既に通勤時間であり、寝ぼけ眼でベッドを追われた2人には馴染めない空気感である。
 そこから快速電車とかを乗り継いで姫路に向かう。ここで、屋島工房の尾原氏と合流。私はもちろん、池田君も石井商会を訪問するのは初めてであるが、尾原氏はグローブ用皮革の仕入れや打ち合わせで何度も訪れており、地理にも詳しい。そこで、案内役を買って出てくれたのだ。

案内役を買って出てくれた尾原氏。香川からは近いと思ったけれど、フェリー使って3時間とは、意外と遠い。

 姫路に伝わっている皮革文化の象徴のひとつとして"姫路白なめし革"というのがある。これは牛皮を姫路市内に流れる市川の水に何日も漬け、播州の天然塩と菜種油を使用して乾燥させ加工した革で、美しい薄乳白色の強い革だが、とても手間のかかる工程が特徴でもある。現在、その当時の技術を継承している方はお一人しかおられないというが、市川沿岸の高木地区には現在でも多くの皮革産業が根付いている。
 姫路周辺に皮革産業が根付いた根拠として、市川という穏やかな川の流れと広い河原が皮革のなめし加工に必要な条件を満たしており、なおかつ西日本では多くの牛が飼われ、原料である牛皮の集荷が容易であった。さらに比較的温暖で雨も少なめなので、革を天日に干すために適していた。また、皮の保存や処理に必要な塩の入手も容易なうえ、大阪や京都など政治・経済・消費の中心地とも近い……という様々な要因が絡み合っているという。
 その高木地区に今回の訪問先である石井商会さんがある。この工房からキップもステアも和牛も馬革も、完璧な最終加工を施されて夫婦坂工房へと送られてくる。その最終加工のお話と和牛のお話をお伺いした。




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