自分が住んでいる土地よりも西とか南に行けば、確実に温かくなると勘違いしてしまうことが、誰にでも大なり小なりあるのではないだろうか? かくいう私も、今まで日本中を旅しているのに、未だにその自分勝手な気候感覚をばっちりと持っているのだ。
 東京ってところは、案外温暖な地域で、降雨量はさほどではなく、寒さもそれほど厳しくはない。しかも、バイクで移動しても、2時間も3時間も走っているわけではない。それでも寒い。でも、四国はずーっと西にあるし、南国土佐だから暖かくてもバチは当たるめい、と考えてしまいましたね、べらぼうめ。
 下船を待つ船の中から徳島の空を見ていると、燦々と輝く太陽から降り注ぐ柔らかな陽射しのもと、実に軽快に四国ツーリングが始まるように思えた。これで、徳島で合流する予定のJRP尾原さんが、アロハかなんか着て、ついでにムームー着たお姉さんも引き連れて「ようこそ四国へ」とかいいながら、かの国の応援団よろしくにこやかに手を振っていると完璧なのだが。


 車両デッキから、港へのスロープを走り出すと、いきなりの横風が「そんな訳ありませんよーだ」と船の中でぬくぬくと弛緩した身体中の隙間に突き刺さる。向こうでは、尾原さんが冬装備で手を振っている……。やべぇ、四国寒いかも。
 でも、三橋さんはやけに元気だ。地面は揺れないし、バイクには乗れるし、カツオにも讃岐うどんにも確実に近づいているのだから。
 強風が吹き荒れているので案内所に避難し、さっそくJRPの尾原さんが試作品のグローーブを長椅子の上に広げる。ショート、ミドル、ロング、革の違いにサイズ違いなど10種以上のグローブが並ぶ。初めての使用からググッと手に馴染む全面鹿革のショートグローブを選択。むむむ、これでペアスロープの試作来春モデルジャケットと、防水対策が施された試作ライディングベスト、さらにJRPの試作グローブ……こうも新品に包まれると、鼻の穴をフガフガさせながら「よぉし、チェックしまくるぞぉ」と気合いも入り、道路公団を前にした猪瀬直樹の心境だ。でも、本当は冬物のテストをしたいような気分でもある。


 徳島港からは、クネクネっと裏道を通って国道55号線へ。今日の目的地は、徳島と高知の県境を越えてすぐの別府峡温泉。別府峡までは、様々なルートがあって、オフ車なら迷わず剣山スーパー林道だろうし、いかにも四国の細道、クネクネ道の洗礼を浴びたければ県道16号、あっさり行くなら国道195号といったところ。我々四国バクバク隊は、スクーターを含めたオンロード集団だし、午後2時を過ぎてもはや傾き始める太陽に敬意を表して、国道&那賀川沿い県道のちょっとは風光明媚かも知れないコースを選択。
 なのに、うっかり八兵衛、気がつきゃあっさりルートで国道195号に進入。あとはこのまま国道を進むだけ。交通量も少ないし、遅ればせながら那賀川とも合流して、すこぶる気分が良くなってくる。ツーリング・ムードもようやく盛り上がってきたというもの。寒くなければ……。そう、寒いのである。案の定、缶コーヒーブレイクになると、寒さ自慢に華が咲く。やれ、スクーターは寒くないとか、プルガー・ジーンズはいいとか、革パンじゃねえかとか、なぜ防寒グローブがないとか、どうにもこうにも寒いのである。
 秋の夕陽はつるべ落とし、しかも谷間で速さは2倍。紅葉も、暗がりでは映えずに、迷わず投宿。

 べふ峡温泉

 かなり昔に訪れた別府峡温泉は、合宿所みたいな造りだったけど、いまは綺麗に改築されて、山間のプチリゾート気分。案内された部屋の名前が「檀」と書いて「まゆみ」と呼ぶ。
「なんだか、飲み屋の名前みたいっすねぇ」
 なんつって、もう、宿に着いてウッキウキだから、軽口叩けば
「このうつけ者。拙者の女房の名前だ」
 と三橋さん。まじかよ別府峡温泉……。そこまでは読めなかったでごんす。
「どうりで、素敵なお部屋ですねぇ……」

 夕食前に迷わず温泉へ行くのは常識。ちょちょっと身体を洗って湯船に入ると、身体中にピリピリピリピリと電気が走るエレキテル。このピリピリこそ、寒い時期の温泉ツーリングの醍醐味で、まことに至福の時。
 ちょっとぬるっとした泉質の温泉に浸かって、近所のおじさんとしばし談笑。
「いや〜今日は寒かったねぇ。朝はみぞれが降ったもんなぁ」
 まじかよ南国土佐……。


 それにしても、この温泉には最大の欠点がある。なんで夜10時で終了なのか? 普通は夕飯前にひとっ風呂、夕食後の軽い宴会のあとにひとっ風呂、さらに酔い覚ましにひとっ風呂、部屋に帰ってビール飲んで与太話をして、最後にひとっ風呂ってのが温泉宿の愉しみではないのですかぁ!! 悲しいぜよ。

※このページ全て三橋デジカメにて撮影。

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