鳴門海峡(大鳴門橋)
工房から東に20分ほど走ると、県境を越え徳島県鳴門市に。そこでは、うどんの本場”さぬき”とは違って、全く異質なうどん文化が続いていたのでした。それは・・・さぬきとは対極に位置する麺が特徴の鳴門うどん。まだまだ全国的には知られていないうどん文化を、調査してきました。


 四国工房の大ベテラン縫製職人である”おばあさん”は、徳島県鳴門市のご出身。
 工房から鳴門市へは、そんなに遠くない距離なんですが、実は・・・県境をはさんだ向こうとこっちでは食文化が大きく違い、いつも論争の種になります。例えば正月のお雑煮の具に「何を入れる?」とかで・・・(さぬきはあん餅を入れたりします)

 特にいつも言い争いになるのが、うどんの麺について。さぬき生まれの親方(おばあさんの子ども)は、シコシコとした”コシ”のある麺が好きなのですが、おばあさんはそうでもない様子。「かたいうどんは、好きやないわぁ」てな具合。

 それで鳴門にあるうどんの店の話になるのですが、
 「のどごしでとろける・・・」
 「細くて短くて不揃い・・・」

 そんなさぬきの常識ではありえない麺が、鳴門のうどん店では出てくるらしいのです。

 そう言われると、どんなもんか食べてみたくなって、早速鳴門へ出かけてみることにしたのです。


 まずは、高島にある「舩本(ふなもと)」へ。鳴門の渦潮で有名な鳴門海峡の数キロ南に、小さな海峡「小鳴門海峡」というのがありまして、そこでは今でも人や自転車を載せる渡し船が残っています。

 その島側の乗り場近くに目指すうどん店があります。
 閑静な住宅地の中のうどん店なんですが、店内は意外や意外・・・地元と思われる方々で、10席少々のイスは、ほぼ満員の様子。



 空いた席に座って、お品書きを見ると、「うどん三五○」とあるだけのシンプルさ。さぬきのように、「釜揚げ」にしようか、「天ぷら」載せようか、なんて考える余地さえなし。とにかく”うどん”だけの直球勝負なんですねぇ。


 麺は、きしめんの様に平ら。でも幅はそんなに太くなく、長さもかろうじて箸でつまめるぐらいの長さ。しかもどれも一様じゃなくて不均一・・・。
 出汁を「ぐっ」とすすった後に、麺を食べはじめて驚いたのでした。「のどに麺が通っている感じがしない。とろけるような感じ。」
 決してさぬきうどんが”のびて”柔らかくなっているのとは違い、例えて言うと「ご飯に対するお粥」の様。でもこれはこれで美味い。出汁も美味い。
 ちょっと衝撃の出会いでした。さぬきではありえない麺。「うどんは”コシ”が命」という概念をひっくり返したのでした。

鳴門の島々の尾根を結ぶ、鳴門スカイライン。景色を見ながら軽く流すのが楽しい道路です。

 さて、今度は場所を鳴門駅近くに移動して、何と創業が江戸時代(らしい)・・・という「大井食堂」に。商店街から一筋奥に入った、静かな通りにお店はありました。お店の中も外も、何というか味のある昭和の佇まい。


 
そういえば子どもの頃、親父に連れられてよく行った近くの大衆食堂のうどんはこんな感じじゃなかったっけ・・・。麺は確かにさぬきとは違うんだけど、でも、出汁の感じも、刻み揚げの感じも、店の雰囲気も、どこかで出会った懐かしい感じがするんです。
 麺は、口当たりが優しくて例えてみると女性的。出汁も熱めで、からだをホカホカと暖めてくれます。

 一杯350円の鳴門うどんで、至福の瞬間を味わえたのでした。

 店を出てバイクに跨って、体を少々動かして、まだ胃に少々スキマがあることを確認。もう一杯食べようと、大井食堂からほど近い「みつい」へ移動。



ちょっと一息(工房短信)

ライディンググローブは、手の動きを妨げない柔らかい革が好まれるのですが、和牛を使った「屋島」シリーズは、新品だとコシがあって少々硬め(うどんの話じゃないよ)。でも、使っているうちに革の繊維がほぐれていい感じになるんですよね・・・。最近僕の愛用の一品です。和牛屋島ショート



 みついでは、竹輪入りうどんを注文。揚げが入っていなかったので、素直な出汁の風味が味わえたのでした。麺は、やはりお店によって若干違う印象があるのですが、基本的には、平細でちぢれていて、柔らかくて不揃いなのは同じ。味は・・・美味いに決まってるじゃないですか。

 帰り際、店主と立ち話をしたのですが、(僕のバイクの香川ナンバーを見て)「さぬきの人は固いんが好きや・・・ちゅう人が多いからなぁ」と何だか申し訳なさそうに言ってくれたのが印象的でした。でも言葉の裏腹には「自分の所の麺、鳴門のうどんの方が美味い」という自信が見え隠れしていましたけど(笑)・・・。
 
 徳島にも「さぬきうどん」を出すお店が増えているのですが、そんな中にあっても「鳴門」独特の麺の文化が生きながらえているなんて・・・。素晴らしいじゃないですか。
 


舩本は高島の鳴門教育大付近で、みついと大井食堂はJR鳴門駅南側で、近くを出歩いている地元の人に聞いてみて下さい。必ず知っているはずです。基本的には、お昼時だけの営業で、午後1時台には早くも閉店になります。鳴門うどんは別名「鳴ちゅる」「鳴門のちゅるちゅるうどん」とも呼ばれています。ネットで検索するなら、こちらのキーワードも有効かと・・・。





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