2011年9月14日 担当 尾原

四国の工房で作られるグローブは、そのほとんどの材料が革。どんなに職人に技術があろうとも、革の状態が良くなければ、決して良いグローブは作れません。私たちの生命線ともいえる革は、今どうなっているのか、最新情報をお知らせします。

 私たちの工房で作るグローブは、基本的に主な部分を革以外で作ることはありません。それは”いざ”という時の防具としてであったり、指の長さに応じて革が伸び縮みをすることであったり(フィット感の増大)、未だ人工素材では、勝てない部分が革にはあるからです。

 ウチでよく使うのが、鹿革と牛革。鹿革は奈良のメーカーから。牛革は兵庫県のメーカーから直接仕入れています。これらの仕様は、既製品ではなく、全て私たち工房のオリジナル。メーカーの鞣し職人(タンナー)と直接やりとりして、独自のレシピで革を作ってもらっています。
 
革の作り方

 ウチのグローブ用の革は、「クロム」と言われる方法で鞣されます。それは、柔軟性・弾力性・引っ張り強さ・耐熱性・染色性、などといった面で優れているからです。
 材料は、牛革は北米・ニュージーランド・国内、鹿革は北米かニュージーランドからやってきます。国内産にこだわらないのは、主に量的な理由。国内に比べて多くの原皮生産量があるため、同じ様な品質を安定して選ぶことが可能です。

ちょっとグロイかもしれませんが、牛革の原皮。食肉処理で剥いだ皮を塩漬けにして、パレットに乗ってやってきます。
毛や肉片といった部分を取り、腐敗を防止し、皮の繊維構造を安定化するクロム鞣しを行います。大量の水が必要になります。
これがウエットブルーと言われる、染色前の下地。クロム塩によって薄い青色になります。ここから求められる製品に応じて厚み調整などが行われます。
下地に染料や加脂剤を含ませ、色の調整、風合いを良くしていきます。もちろん材料の混合具合が、タンナーの腕の見せ所です。

 写真のような下地処理にくわえて、表面の加工をすることで、革が出来上がってきます。グローブの場合、手の曲げ伸ばしによる、屈曲部が多く、革に柔らかさが求められるので、型押しやラッカーといった表面加工をほとんどしない「素揚げ」がほとんどです。


生きていた時のシワや傷がそのまま出てくるのも、素揚げの特徴です。

数十枚単位で革がやってきます。同一ロットで仕上がった革は、ほぼ同じ色合い、風合いに仕上がっていますが、表面の状態、質感は革によって当然異なります。
革に金型を置いて、プレスで抜いて行きます。革の伸びる方向、厚み、傷の有無、シボの具合などを配慮しながら抜いていきます。
裁断したパーツを組み合わせて縫製し、グローブが出来上がって行きます。革パーツは1双につき20〜30点必要です。


 さて、グローブ用の革についてですが、最近大きな変化が起きています。それは、

@革の慢性的な供給不足。
 新興国の需要(特に中国)の革の消費が年々大きくなり、原皮調達が次第に困難になりつつあるということです。これは鹿革にも牛革にも言えること。需要が多いということは、値段が上がる傾向にあります。

A牛革は、国内産の供給が不安定に。
 2010年の口蹄疫、2011年の東北地方の地震によって、国内の食肉処理が不安定になっています。これまで国内産の原皮を使うこともありましたが、海外産原皮にシフトすることもありえます。

B中小タンナーの廃業など。
 グローブは、ほとんど(ウチを除く)の会社の生産が海外移転しています。アパレルも靴も現在進行形で海外移転が進んでいます。国内の革よりも、海外手配の革が安いため、仕事が減っているのでしょう。また工場立地周辺の環境問題のため、排水処理等の負担も増大していると伺います。それゆえ、廃業を選ぶタンナーも多いと聞きます。

 いずれにせよ、いい革を供給してもらえなければ、良いグローブなどできるはずがありません。革はその時々の気候、原皮ロットなどによって大きく異なります。自分たちの求める革をタンナーにイメージしてもらい、革づくりの際にレシピを微調整して忠実に再現してもらう必要があるのです。
 だからこそ、絶えずタンナーとコミニュケーションが必要ですし、問題があればすっ飛んでいって解決できる環境が必要なのです。


 良いグローブを作って、それを適正な値段で販売する・・・。それでウチの職人も生きることができるし、革を仕入れるタンナーも仕事を続けることができる・・・。ウチのグローブを買ってもらうことで、そんなつながりも生まれてくる。日本の物づくりの灯火を消すわけにはいかないのです。

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