会社勤めや自営業、もしくは趣味の世界でも名刺を持つ人はかなり多かろう。今回は名刺そのものではなく、それを入れる「名刺入れの話」である。
たかが名刺入れ、されど名刺入れ・・・けっしておろそかにしてはいけない。この道具には想像を絶する効果がある。


PAIR SLOPE 2025/9/8


通常、人は初対面で名刺交換をする。そこで思い出していただきたい。名刺より、名刺入れのほうが先に見られていることを。
相手が大事な取引先であったり、立派な方だったりと人それぞれではあるけれど、もし、自分の名刺入れがチープでショボくてオンボロで汚かったら(ちょっと言い過ぎか)、そんなことで相手に見下されてしまうのは大損だ。しかし反対に、名刺入れで相手に好印象を与えたならどうだろう。私の個人的な話で恐縮ながら、とある日、こんなことがあった……




初対面というのはなにかと緊張するもので、しかも先方は今後お付き合いしたい仕事上の大事な人だからなおさらのこと。
「初めまして……」と、名刺入れから名刺を取り出す。その名刺入れはコードバンにトンボ印伝の弊社自慢の製品なのだが、これが作戦である。
案の定、先方はその名刺入れに目が留まる。
「変わった名刺入れですねえ、なんの革ですか?」
「はいこれはコードバンといって馬革の希少部位でして、鹿革にうるし塗りでトンボ模様を描いているのが印伝と言います」。話はこれで終わらない。
「駿馬のごとくツッ走る姿と前にしか進まないトンボ。戦国時代には逃げ帰らないということからトンボは”勝ち虫”と言われまして、兜や着物にもトンボマークを入れていた武将がいたのですよ」
「ほぉ~なるほど、トンボは戦国武将の好みだったのですか」
……名刺交換時は何を話してよいか分からないものだが、この名刺入れで親近感が生まれ、仕事もトンボのように”前向き”に進んだことはお察しのとおり。




後日のことである、高校時代の同級生のKが弊社本店にやって来た。
Kは大企業の役員や大学教授や国会議員などと接触が多く、そんな仕事柄、名刺交換が非常に多い。であるならと先ほどの私のと同じ”コードバントンボ印伝”の名刺入れを売ってあげた。当然ながらそのウンチクを近所の居酒屋に移動して披露。
Kは法律関連の仕事で知識が豊富だから、あの程度の話は知っているものと思ったが、なんと初耳だと言っておおいに関心を持った。正直なところ、Kの法律の話は難しくて面白くもなんともないのだが(スマン!)、私のトンボや武将や城や温泉や、はたまた伝統工芸の話は、やはり我ながら面白い。なので毎年のようにKは私を居酒屋に誘う。

そして5年が過ぎ、Kはいつものようにやって来て、毎度のごとく居酒屋へ。しかし神妙な顔つきだ。
「ゴメン、あのお気に入りの名刺入れを失くしちゃったんだ。また売ってくれないかぁ? 頼む!」
「なんだとぉ、俺の名作を失くしただと? けしからん、ほんと失礼なヤツだなあ!」
「あれ、かなり役に立ったよ。トンボと武将の話は傑作だよ。たのむ、売って!」
しかし欠品中で断るが、Kはあきらめない。
「しょうがねえなあ、高校時代から居酒屋にかよった仲だから(半世紀前なので時効)、今度はさらにバージョンアップした名刺入れを作ってやるかぁ」


……と、でき上がったのが”琥珀漆(こはくうるし)コードバントンボ印伝”。駿馬と前進あるのみのトンボと日本の伝統工芸のトリプル合わせワザである。これは世界中どこ探してもない。Kはすこぶる喜んでこう話す。
「あのさ、今はデジタル社会でさ、メールで『初めまして』が少なくないけど、ダメだよそんなの。相手の感情がわかんないよ。やはり初対面はお互いに顔を見て話さなきゃなあ。名刺交換ってのは意味があるんだよな!」
その通りだ。ご機嫌のKは私を寿司屋に誘う。えっ、なんだよ、ワリカンかよ。。。

それから数日後、Kから電話が掛かる。
「先日とある会社のトップに名刺入れを見せて、教えてもらったウンチクをしゃべったらさ、同じ名刺入れをぜひ売ってほしいって。それとさ、ウチの顧問弁護士もほしいって。だから、あと二つ作ってくれないか?」
「なに言ってんだよ、あれは売りもんじゃないし、相当難しい作りなんだぞ!」、、、と言いつつ、私も欲しくなってすでにコッソリ作っていた。

さて、ここまで大風呂敷を広げて 「でも売り物じゃあございません!」 では裁判を起こされそうなので、この作品、“人と人とをつなぐ究極の名刺入れ” はものすごく高価だからきっと売れないのは分かりつつも販売することに。
ウンチクは大サービスのオマケということで、、、。
おしまい




高価なコードバン1枚で作れるのは4~5個。写真はプレーンなコードバン名刺入れ

名刺は出した分だけ入ってくるので、30~40枚は収納可。大事なカードも2~3枚が別収納
最初にKに販売したトンボ印伝コードバンの名刺入れ。2025年の秋再版予定、税込¥28,600 ペアスロープグリーンの染色コードバンタイプは落ち着きあり。2025年の秋、新登場

※名刺入れは約15枚は入るカードケースとしてもご愛用できます。
各名刺入れの オンラインショップはこちらへ >> (ベルト・財布・キーホルダー カテゴリーより)




こはく漆コードバントンボ印伝
日本各地5ヵ所の職人による一つのもの作り・・・手間かかってます!

[コードバン加工(馬革の希少部位)]・・・長野県
[うるし塗り]・・・石川県 山中漆
[トンボ印伝]・・・奈良県
[牛革(内装)]・・・兵庫県姫路市
[縫製仕上げ]・・・長野県 ペアスロープあさま工房

「漆製品」の専用ページは こちらへどうぞ >>


・・・コラムの主役ご案内
2025年秋の究極の新作は「黒トンボ」と「赤トンボ」があり。価格は税込¥36,300と飛び抜けて高額だが、その効果は計り知れない。なお、漆塗りの革の耐久性も飛び抜けている。
[あまりにも手間がかかる製品なので・・・ほぼ受注生産品、たま~にラインナップ]
琥珀漆コードバン製品の専用オンラインショップは こちら >>








[どうでもよい・・・著者近影]
かれこれ半世紀に渡るバイク乗り。全国各地を巡り、その経験を基に自社工房による革製品を中心としたウェアやグッズを製作。「日本の職人の技は、捨てたもんじゃない!」が信条。
趣味はバイク以外にも鉄道、温泉、釣り、酒好き。近年は忙しくて東京湾の釣りに行ってないが、近々復活の予定。しかし筆者に竿を持たせると、あまりにも釣りすぎて東京湾の漁師に怒鳴られるので警戒。
グラフィックデザイン出身の元縫製職人で、ペアスロープ代表および現在不定期営業である京都伏見店の店長兼務。なお左の写真は2016年のもので、まだ髪が黒々しているが、現在は昭和30年代生まれの歳相応。


ペアスロープHPインデックス >>