文:三橋弘行 写真:坂上修造 取材日:2017年4月5・6日
[ モーターサイクリスト誌連載 建築編 第3湯 ]






伊豆半島のまん中を通る国道414号線、その中央付近に湯ヶ島温泉がある。
この静かな温泉地には多くの文人達が湯に浸かりに来た。なかでもこの地で書かれたという川端康成の『伊豆の踊子』は知られている。
その舞台となったのが、旧道にある天城越えのトンネル。その前後数キロは未舗装道路で、昔の面影を残しているので小説が脳裏に浮かぶことになるだろう。とはいえ筆者の場合は『伊豆の踊子』よりも、石川さゆりの『天城越え』、「あまぎぃ〜 ご〜え〜♪」のほうであったが。






湯ヶ島温泉落合楼村上
その玄関は格式の高い入母屋造り。バイクで来た筆者は身構え、失礼のないようすぐにエンジンを切った。さてどこに止めようか考えていると、宿のスタッフ氏が「玄関の横にどうぞ」・・・(紳士的な?)バイク乗りには好意的な理由があった。それはあとで述べよう。


宿は清流に囲まれたような環境で、敷地内には吊り橋があり対岸に渡れる。散歩にちょうどいい。
木造の建物は、格調を重んじた『書院造り』と、少々遊び心を取り入れた建築の『数寄屋造り』、古き良き日本建築の両方が隣同士に建てられている。と思ったら洋風の喫茶室(ラウンジ)があるのも面白い。圧巻は大広間。その細部の造りにも目を見張る。





「ただ地産地消というだけではなく、生産者の顔が見えるようなことが大切。お品書き、その料理方法、盛り付け、それを係りの者がお客様にお伝えします」・・・というのがこの宿の料理の方針。
次から次と出てくる料理はどれもが美しい。盛り付けのセンスがよく、まずは見た目で癒やされ、そして食べる楽しみを与えてくれるのである。・・・その味、下手な文章で長々語ることなど必要なし。「美味しい!」のひと言で良いでしょう。





火山岩に囲まれた洞窟風呂は幻想的。その出口に進めば、開放的な露天風呂へとつながる。このような変化に富んだ湯船の造りは、そうあるものではない。大きな貸切り露天風呂、そして内湯もよし。清らかな無色透明の湯に癒やされる。
・・・だがしかし、これだけ素晴らしい湯船を持ちながら、公式サイトでは温泉を大きく(詳しく)取り上げていない。なぜ自慢しないのか、これが不思議でならない。

[ 落合楼村上の湯]
泉質:単純温泉 / カルシウム・ナトリウム−硫酸塩温泉
源泉本数:4 動力ポンプ&自然湧出 湧出量:約200 L/分
pH 7.8〜8.1 弱アルカリ性 
源泉温度:43.3〜55℃ 溶存物質:1287〜1781mg/kg
源泉掛け流し(夏季減温の為に加水・冬期加温)
浴室:内湯1 内湯&露天1 半露天1 貸切り露天1
取材日:2017年4月5・6日





歴史ある文化財温泉宿の主人はさぞ厳格なお人柄なのは間違いなかろう、とお会いしたら、想像とは裏腹にニコニコと話し始めた。
「実家が伊豆の付け根の三島近辺なので、箱根を走り回ってました。大排気量バイクを追いかけ、コーナーで抜くのが醍醐味でしたよ…」。
若い頃はバイク乗りだったと語る。しかもギンギンの走り屋。だからバイクのお客に理解があるのだろう。(とはいえ、排気音に配慮しましょう)





文化財の建物の内外装、優雅な食事、そして心地良い温泉で非日常的な時を過ごせる高級旅館といえよう。たまには奮発して夫婦で、または大事な人を連れて行けば、男の株はおおいに上がる。これはまちがいなかろう。

料金はひとり平日3万390円〜 (2名1室諸税込)。全15室。一人宿泊OK。立寄り入浴無し

落合楼村上 公式HP >>


次回、「建築編」の4湯目は・・・

 兵庫県 城崎温泉温泉 
三木屋


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