文:三橋弘行 写真:坂上修造 取材日:2017年10月19・25・26日
[ モーターサイクリスト誌連載 2018年 3月号]




秋の山々の紅葉景色は美しい。初夏は新緑で美しい。信州浅間山付近の魅力ある景観だ。 天狗温泉へは約4キロの未舗装路を走らなければならない。しかしフラットダートなのでご安心を。

前ページ掲載10湯目の『ランプの宿 高峰温泉』から、チェリーパークラインを下った標高1400mの地点に天狗温泉 浅間山荘がある。チェリーパークラインからの宿に向かう脇道は未舗装路ではあるが、これがまた楽しい。キツネやタヌキにサル、そしてキジとの対面あり、どうやら彼らの通り道でもあるようだ。
標高は高峰温泉より700mほど低いが、運が良ければ見られるその雲海は素晴らしい。雲から近いことから迫力があるのだ。その下には小諸市街地に上信越自動車道と北陸新幹線、晴れた景色もまたよし。浅間山荘は自然に恵まれた一軒宿である。

浅間山荘の敷地からの天の川。この光景をイメージしたのが弊社『天の川グッズ』。



宿の背後、直線距離で約4キロに浅間山がある。ここはその登山道の6合目にあたる。よって浅間山荘は浅間山の登山客が多い。





にごり湯の中で、黄褐色の湯は少数派だが全国には点在する。それらは温泉施設によって赤湯とも黄金色とも言われている。そもそも源泉は無色透明なのだが、鉄分を含む成分が酸化されてそのような色に変色されるのだ。
そんな黄褐色でも、天狗温泉の湯の色は際立っている。全国でもこのような鮮やかなオレンジ色は他にないような気がする。
なお、この湯船は完全な源泉かけ流しではない。いや、かけ流しにできない理由がある。温泉成分の沈殿物が湯船にたまることで、循環してかき回さなければならないのだ、と聞く。それを別な言い方をすれば、「源泉かけ流してかき回し温泉」とでも言おうか。
また、活火山の浅間山が隣りにあるのに、湯温8.4℃という冷鉱泉なのが不思議だ。高温のマグマが近いのに。
いずれにせよ、カラダに良い泉質であることは間違いなく、浸かって気持ちいい温泉である。

[ 天狗温泉の湯]
単純鉄Ⅱ冷鉱泉 [炭酸水素塩型]
源泉本数:1 自然湧出 湧出量:47.6 ℓ/分
源泉温度:8.4℃ pH 5.9 弱酸性 溶存物質:515mg/kg
加水なし・加温あり 内湯『岳』は循環ろ過、『空』は循環
浴室:内湯4(男女別)
取材日:2017年10月19・25・26日




見事な和洋折衷、山の温泉宿の典型的な異端児料理である。
浅間山荘の敷地は約1万坪(主人に聞いても正確には不明)。そこで採るキノコや山菜がメインなのだが、調理に工夫が見てとれる。それぞれの食材の名を聞かなければ分からない、というのも面白い。そして食べて旨いのだから満足だ。
写真は秋の料理の一部だが、春夏秋冬、さてどんな食材が目を口を楽しませてくれるのか。

蕎麦は主人の手打ち。 生地部分が大きなシイタケのピザ。

馬を飼っているのに『馬刺し』あり。






宿に電話をすると、例の不在留守電しゃべりの一辺倒な声が聞こえる。「ハイ、天狗温泉浅間山荘でございます」・・・なんだ留守かぁ。たいてい電話に出るのは主人。しかしそれは生の声である。
そんな電話の平坦で極めて営業的なしゃべり方、そして写真の表情から、さぞやクソ真面目な主人と思うだろう。ご自分でも「ランプの宿 高峰温泉のご主人以上に私は真面目です!」とおっしゃる。筆者の返す言葉は「そんなこと言ってると、ほんとに天狗になっちゃいますよっ!」。※不真面目ではありません。

ご近所の高峰温泉主人のお客に対するサービス精神には頭が下がる。しかし天狗温泉の主人もけっして負けてはいない。乗馬でお客を楽しませ、秋はキノコ狩り、コテージ・ロッヂ・キャンプ場にBBQ、料理しかり、と。人は見かけ(電話の声も)によらないのである。


ところで、この宿を取材したいきさつを正直に語らねばならない。

先ほどから話に出てくる高峰温泉は、小規模ながらも名の知れたメジャーな温泉宿と言える。対して天狗温泉は知名度も標高も高峰温泉より低い(これ読んだら怒るかな、天狗の主人)。少し知られているとすれば赤湯くらいであろう。完全な源泉かけ流しではないこともあり、取材というわけではなく、高峰温泉の帰りにちょっと立寄っただけなのだ。しかし事情がかわった、、、。

   女将が、、、、、、、、、、、





















・・・美人なのである。
そうなると一般的にはツンツンして近寄りがたく、話をしても女将という仕事柄の営業的なものだが、この女将はちがった。なんとも気さくなのだ。

主人に尋ねた。いつどうやって女将と縁があったのかを(余計なお世話だ)
「ウチの宿に泊まりに来て、その後、宿の手伝いをしていたら、ナンパされたんですよ」
・・・かなりウソ臭い。

後日、女将にそのことを聞いた。
「そういうことにしておいてくださいなぁ」
主人をたてる優しい女将だ。しかし主人が天狗になる日は近い。(ピノキオのほうかな、ウソつくと鼻が伸びる)




女将が美人だから正式な取材をした。というのだけではない。すでに記載したとおり、
●宿の環境とその美しい景観 ●素晴らしくよい泉質、そして色合い ●工夫を凝らした料理 ●乗馬ができる温泉宿(他に聞いたことなし) ●主人と女将の人柄 と、さまざまな点でかなり興味の湧く宿だ。
しかしメジャーな温泉の会などに入っていないせいか、予約が取りにくい宿にはなっていない。まあ混むのもやだから、ほどほどにご案内しておこう。

料金は1人平日1万2040円~ (2名1室諸税込・1名宿泊は可) 本館客室10室。※コテージ・ロッジ・キャンプ等の料金はサイト案内または電話を。立寄り入浴:1階の内湯のみ可、800円

天狗温泉浅間山荘 公式HP >>

次回、「にごり湯編」の12湯目は・・・

 栃木県 
奥鬼怒温泉 加仁湯




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