文:三橋弘行 写真:坂上修造 取材日:2015年6月4〜6日
[ モーターサイクリスト誌連載 第9湯 ]




透明度の高い美しいコバルトブルーの田沢湖から東に向かう県道を走り、横道を2.5キロほど進むと宿がある。その手前900mは、走りやすいが未舗装。電柱もない。それには理由がある。
門のすぐ横には、江戸時代に建てられた茅葺屋根の棟があり、お客を迎える。近代的な物を見つけるとしたら、裸電球くらいだろうか。江戸時代とはゆかなくも、明治か大正時代にワープしたような錯覚になる。そのどれもが、この宿の主人の演出であり、おもてなしでもある。ここまで徹底的な宿は、全国的に珍しい。



食事は地元食材による料理。種類も豊富でそれぞれが素朴だが味わい深い。宿の自慢「山の芋汁」は、これだけでメシ2〜3杯はいけそう。もっとも筆者の場合は、これをツマミにして日本酒をちょびちょびとやるほうだが。
旅館やホテルの豪華で美しく盛られた料理もいいだろう。しかしこの宿の風情を感じながら食べる田舎料理、そして漬物には「贅沢」を感じてしまう。日常ではまず味わうことができない、この秋田の山の料理に。






乳白色の大きな露天風呂「鶴の湯」は、さまざまなメディアに登場しており、多くの人に知られている。しかしこの湯が、湯船の足元から湧いているのを知っている人は少ない。そして湧き出た直後の温泉が無色透明であることも。取材では露天風呂の湯を全部抜いた清掃シーンも撮影していたのだ。
なお、その露天風呂は混浴だが、女性専用の露天風呂は他に大小二つあり。内湯もまたよし。どれもが気持ちイイ!

[ 鶴の湯温泉の湯]
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩線泉/含重曹・食塩硫化水素泉/含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩線泉 等
源泉6ヶ所 泉質4種 58〜60℃ ペーハー6.6〜7.1 ほぼ中性
湧出量:合計280リットル/分
足元湧出源泉は無色透明、湯温42〜43℃で白濁
加温なし、加水なし(夏季は減温のため加水)
わずかな硫化水素臭(一般的な硫黄臭) 
源泉掛け流し 自家源泉



とにかく人気がある宿なので、予約はかなり前からか、直前が穴。日帰り入浴もシーズン中(広範囲)は混雑するので、癒やされたいならやはり宿泊がお薦め。

料金はひとり8790円〜1万6350円(2名1室諸税込。※1名宿泊の部屋もあり)。全35室。
日帰り入浴は500円(10:00〜15:00 ※月曜日または月曜祝日の翌日は露天風呂清掃のため内湯のみ)



一般庶民の開湯が1701年からと長い歴史のある湯治宿だったが、廃業を機に現在の主人が1983年に受け継いだ。今ある鶴の湯温泉を作ったのは、主人が初代と言える。
ゆったりとした秋田の方言でさまざまな話をしてくれた。県道から宿までの2.5キロ、クルマが通れる道を広げ、電気・電話もない荒廃した建物を修復した労力は計り知れない。優しい物腰からは想像できない、凄いパワフルな主人は、筆者の尊敬する一人でもある。
なお主人は「日本秘湯を守る会」の会長(2016年)であり、全国の会員宿の先頭に立って、日々忙しい業務もこなしている。



主人の鶴の湯温泉の開業1983年は偶然にも弊社ペアスロープ創業の年である。
現在、弊社のような小さな縫製業にも数々の問題が発生するが、そんな時に主人の話を思い出す。「あんなに努力していたんだ」「あきらめないんだ」「信念を曲げないんだ」と。・・・湯巡りは人生勉強の旅でもある。


鶴の湯温泉 公式HP >>

さて、主人が薦める次の宿は、
 ・・・・・山形県  
姥湯温泉 桝形屋


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