天橋立からタクシーに乗り15分、趣きのある織り元宅に着く。以前はこの家が手織りの丹後ちりめんの作業場だったそうだが、現在は動力による織機(しょっき)を備えた工場を近所に作り生地を製作している。

 織り元の旦那は、重量級の柔道かラグビーか、はたまた関取でもやっていたかのような大きな体格だが、いたって穏やかに優しく織物の話をする。
 部屋にはものすごい数の生地見本があり、絹はもちろんのこと、コットンや麻やポリエステルやナイロンなど、今までに見たことない織り方の生地に興味しんしん。そかしそれぞれの説明をしてもらうには時間が足りない。ここに来た目的は、今織っている弊社の生地の状態を見ることだ。後ろ髪を引かれるが、織機のある工場に移動する。





糸から生地へ。


工場の中、大きな体格の織り元の旦那のあとをついてゆく。



弊社用の糸ではないが、美しい。おっと、もちろんモンちゃんも!


 ひと言で「生地」といっても、その色の生地を作るには二つの方法がある。一つは白い生地から、それを染める方法。そしてもう一つは、糸を染めてから織り上げる方法。ここで織る弊社の生地は、手間の掛かる後者だ。




 ペアスロープオリジナルの丹後橋立織りコットンには3色ある。しかしその糸の色は6色を用意する。これはどういうことかと言えば、生地にはタテ糸とヨコ糸があり、それぞれ異なる糸色で1色の生地を作るのだ。写真はタテ糸がグリーン系で左から出ているヨコ糸がライトグレー。これで織り上がった生地は、玉虫織りとも呼ばれる、見る角度で光沢が異なるオリーブ系の生地となる。

 一つの生地色に2色の糸を使うわけだが、それがオリーブ系といってもどんなオリーブなのかは、織って見なければわからない。要するに「勘」に頼るのだが、しかし当てずっぽうというわけではなく、織り元や糸手配の生地屋の古谷君と相談してのことなので、仕上りの色あいは大きく外れることはない。とはいえ、やはり「勘」ではあるけれど。。。






機械といえど。


 鹿児島の大島紬(おおしまつむぎ)や茨城県の結城紬(ゆうきつむぎ)といった絹織物がある。ペアスロープは以前から使っているが、それらは人の手による機織(はたおり)だ。対してここで織るのは動力による。が、手織りと同じく昔ながらの木製のシャトル(ヨコ糸が入った道具)を使う。手が動力になっただけで、原理はまったく同じ。

 カシャンコションとすさまじい音を出して1時間に約2mの生地が織られてゆく。機械のボタンを押せば自動かと思えば、まったく違う。ベテラン職人が鋭い目でつねに織機を見張り、糸交換もひんぱんにおこなう。これは根気と注意力を必要とする作業だ。
 織り元の旦那が、この地域の生地工場は毎年のように廃業していると言う。跡継ぎをしたがらないのだと。この作業を見てなんとなくわかる。楽じゃあないもの。

1本で50cm織れるヨコ糸のコイル 昔ながらの木製シャトル(投げひ、とも言う)

重そうな鉄製の織機 極めてアナログの動力部分

丹後橋立織り、綺麗!・・・見とれているモンちゃん。しかし写真では繊細な色合いを表現できませんね。


では生地が織られているシーンをご覧いただきましょう。
※ボリュームを下げてください。騒がしいですよ。。。







もちろんカニも。

 1反(50m)織るのには、動力機械を使っても約25時間、3日間必要だ。今回は3色合計21反だから、なんと63日もかかる。なんとか撮影の1週間前までに完成させてほしいものだ。そこからすぐに縫製してウエアを作らねばならないのだから。

 さてと、東京に帰る前に食わなければならない名産品が丹後にはある。それはカニ、ズワイガニだ。ここでは松葉ガニというが、その中でも特に美味いと言われているのがこの地のブランドガニ「間人(たいざ)ガニ」なのだ。ズワイカニ漁の解禁シーズンならではの御馳走である。

夕食は料亭風の食事処 これが間人ガニ、本物のタグが付いている

 夕方、織り元の旦那に料亭みたいな店を案内された。すかさずモンちゃんが言う。
 「ここ、取材で来たことあるぅ。カウンターでのランチだったけど、大丈夫なのかなあ、高級なお店ですよ~」
 モンちゃんはお勘定を心配してるけど、安心してほしい。今夜は東京原宿(の端っこ)に事務所を構えている生地屋の社長がいるのだ。我らは御馳走になろう。
 (無言で)間人ガニを食い終わると、織り元の旦那が言った。
「私ら地元の者は、こんな高級なカニは食べませんよ」。
 そりゃそうだろう。
 お勘定を支払った後の生地屋社長古谷君の顔は、青ざめて笑っていた。笑うしかないと言いながら。それにしても、いやぁ~、ほんと~に美味しかったなあ、モンちゃんよぉ。

 翌日、東京に戻る。「青松」という丹鉄の普通列車で福知山まで。乗車券のみで乗れ、カフェもある優雅なディーゼルカーだ。ここで御馳走になった(モンちゃんのおごり)カフェセットはコーヒーと和菓子きんつば、これもまたオツなものだ。


丹鉄の普通列車「青松」 木をふんだんに使った車内


生地屋社長の古谷君、見本生地で作った試作品を着て、天橋立をバックに笑顔。


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